019 アンブラ村
街道が二手に分かれ、「右に行くとアンガレ市」という看板を左に折れると,急に人通りは少なくなっていった。
「アンガレ市というのは?」
「このミナモ皇国における、東タバータ王国との防戦の要じゃな。というか、だったというのが正確なところかの。お前さんの祖国ザルツベルが東タバータに侵攻され、アンガレ市だけが前線では無くなったからの。今は小康状態だが、国の偉いさん同士はピリピリしておるし、ワシら庶民はおこぼれの仕事にありつこうとしてるしの。さっきの武具屋も、兵士の武具の依頼が増えて儲かっているみたいだ。だから、ジャージャの話には食いついておったぞ。」
「ジャージャって、鬼蜂が好物でっていう動物ですよね?ターラさんは、たぶん現れないだろうって。」
「ターラに騙されたようだな。毎年アンブラ村はジャージャの被害に遭っておる。たしかに時期は少し早いが、おそらく近くにはおるだろう。また、被害を事前に減らす為にも、今のうちにジャージャを探すべきだろうな。」
「そりゃそうですけど、我々だけで危なくはないですか?鬼蜂も大群で出るって話ですし。」
「心配せんでもいいぞ。お前さんはどこかに隠れて居ればよい。お前さんに危険が及ぶ事はないゆえ、収穫物を運ぶ算段だけ気にかけておいてくれたら、それで充分だ。」
「シバケンさん、ごめんね。そうでも言わないと来てくれそうになかったから。報酬もあんまり良くないから、なかなか見付からないんだよね。それに、荷物持ち探しで時間を無駄にもしたくなかったから。」
てへっと、申し訳なさそうに笑顔で謝る少女に、怒る気にもならない。
「そのかわり、他の収穫物の分け前はずむからね。」
「収穫物って、さっき言ってた鬼蜂の蜜とかですか?」
「何言ってるの。鬼蜂は蜜蜂じゃないから、蜂蜜なんか獲れないわよ。ホントに何も知らないのね。鬼蜂といえは、幼虫じゃない。成虫も焼いたら香ばしくて美味しいけど、なんといっても幼虫は人気商品よ。シバケンさんたらすごい顔してるけど、苦手なの?あんなに美味しいのに。」
日本でも食べる地域があるのは知っているし、世界では昆虫食もポピュラーなのは知識としては知っている。
「わしは、成虫の方が好きじゃな。岩塩を振って香ばしく焼いたら、濁り酒には良く合うぞ。」
、、、酒に合うのか。
しっかり火を通したら、食べてみようかな。
「なによ。お酒に合うって話になったら、顔が変わって。でも、たくさん食べちゃダメよ。貴重な収入源なんだから。あとは、ジャージャね。肉は食用にはならないけど、皮を丁寧に剥ぐと皮砥として重宝されてるの。今私も持ってるけど、短剣とか鏃の手入れに凄く良いのよ。自分たちで使う分は少し取っておいて、あとは売ればお金になるわ。中でもジャージャの角は良質の砥石として知られてるわ。悪いけど、これは私達がもらうわね。」
「もちろんそれは構いませんけど、皮を丁寧に剥ぐ、って解体はお二人がやるんですか?」
「お爺さまはあんまり上手じゃないわね。解体は私がするから、シバケンさんもちょっと手伝ってね。」
まだ若いのに、ターラはギルドへの依頼申請、投擲ナイフを使っての戦闘、それに解体までこなすんだ。
この世界で生きる、って事はそういう事なんだなと、ターラを眩しそうに見つめる。
クレンペラーの言う通り、アンブラ村には日の高いうちに着いた。
途中休憩をしつつ街道を歩いたので、シバケンはそれほど疲れは感じなかった。
クレンペラーたちは初心者の自分にペースを合わせてくれたのだろうか。
ゴモ村と同じぐらいの広さではあるが、家の数は明らかに少なく、畑が広がる長閑な村だった。
「ワシはギルドに行って、依頼者と顔合わせじゃ。ターラはシバケンと一緒に宿へ行き、荷車の手配を頼む。」
「わかったわ。思ったより早く着いたから、食事は宿じゃなくて『マーズ亭』にする?」
「そうだな。シバケンとの挨拶兼ねて、今晩は『マーズ亭』でギャバンの串焼きとしようかの。」
「やった。それじゃ、お爺さま『マーズ亭』で。」
「クレンペラーさん、荷物は持って行きますよ。」
「おお、すまんな。では、頼む。」
村の入り口で二手に分かれた。
ギャパンというのは、昨日ガイエンが仕留めたあの生き物か、と思い出しながら、ターラに付いて宿へと向かう。
「この村に来たらいつも泊まる宿があるの。狭いけど、安くて清潔なのよ。ご飯も美味しいんだけど、またの楽しみにね。明日の朝食は500ガンぐらいで、何か軽い物用意してもらいましょ。荷車も宿屋さんで借りられるから。シバケンさんも、ギャバン好きよね?『マーズ亭』の串焼きは美味しいわよ。」
話をしていると、宿に着いた。
思ったより大きくて、小綺麗な外観だった。
「女将さん、久しぶり。」
よく利用するのだろう。
ターラは馴染みの女将にテキパキと部屋の手配と、明日の朝食、荷車のレンタルまでお願いをしていた。
「はい、シバケンさん。明日の朝食代の500ガン、それと、明日のお昼用の堅パンのサンドイッチもお願いしたから、全部で2,500ガンね。宿代はアタシが払っておいたから。」
と言って、ターラは手を出した。
シバケンは慌てて財布を取り出し、机の上に金を広げる。
銅銭、銅貨、銀粒、銀貨の中から、銀貨は10,000ガンだから違う、などとやってると、横からターラが銀粒2顆と銅貨を5枚を素早く掴んだ。
「何やってるのよ。こんなところで、お金広げちゃダメよ。早くしまって。」
「あ、すいません。」
「さあ、これで終わった。部屋に行って、荷物置いて行きましょうね。」
案内された部屋は2階の奥から続き部屋の3部屋だった。
4畳半にも満たない広さの部屋で、ベットのみが置かれている。
部屋には一応鍵らしいものは付いてはいるが、セキュリティ上不安この上ない。
財布だけ持っていけばいいのだろうか?
クレンペラーから預かった荷物は、そのままクレンペラーの部屋に置き、部屋の鍵をかける。
と、同じくターラも部屋の鍵をかけていた。
「『マーズ亭』はすぐだよ。お爺さまはもう着いてるかもね。早く行こうよ。」




