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012 ゴモ村⑦ 覚悟は決めた

 さらに?

 まだややこしい話になるのか。


「東ターバタ王国による、ザルツベルの陥落が重なった。ワシらは一国には属しておらず、構成メンバーの出身もさまざまだ。むしろそれが普通だ。我々盗賊ギルドとは別に、国直轄の諜報機関が必ずある。ザルツベルも同様だ。さて、国が滅んだら彼らはどうすると思う?食うためには働かねばならぬ。敗戦国からのあぶれ者にとって、手土産を持参するかどうかは重要な処世術じゃて。“イヌゥの磔刑”に加わりたい元ザルツベル国の諜報員。ヒューモ様というのは、いかにも魅力的な手土産じゃろう。“イヌゥの磔刑”からしたら、自分達の正規メンバーでは無いとの体裁は整えられるしの。今日来た奴らが、おそらくそれじゃろ。ワシの見たところ、状況はざっとこんな感じじゃ。」


 ガイエンは皆の顔を見回した。

 お茶はすっかり冷めてしまった。

 ワイルは気を利かせて、新しいお茶を淹れて持ってくる。

 ありがとよ、と言ってお茶を一口啜り、ガイエンは話を続ける。


「さて、それを踏まえてじゃが。さっきも言った通り、10歳を迎えたら、タランテラ市の支部に評議会のメンバー入りの申請をする事が出来る。タランテラ市は郷都だ。自警団もこの村の比ではあるまい。また、暗殺を生業としてきた我々に対し、暗殺を仕掛けるには、準備の時間も無くそんな無謀な事はすまい。よって、タランテラ市にさえ入れば、安心だとワシはみておる。さて、肝心のタランテラ市だが、明朝すぐにこの街を出れば、明後日の昼過ぎに着くじゃろ。途中、宿場で一泊する、この二日間が正念場よ。状況はざっとこんな感じだが、何か聞きたい事はあるか?」

「いえ、いきなりだと情報が多すぎて。だけど、それだけの事が分かっているなら、自警団なりに相談は出来ないんですか?」


 何をバカなという顔でみんなが見る。


「証拠があるわけじゃない。また、同業者同士のいざこざを自警団に泣きついてどうする。仮に今回は無事に解決したとして、自分たちの始末も出来ない者に、依頼したいとは誰も思うまい」

「そりゃ、確かにそうですけど。。。それじゃ、明日出発するにあたって、ここにいるみんなの他、何人ぐらいで行くんですか?他のお仲間は何人ぐらい集まりそうなんですか?」

「何を言っておる。明日からもヒューモ様とワシの2人だけじゃ。」

「えっ?!」


 シバケンは言葉を失った。

 同様に、前に話を聞いていたメルリーナ以外、皆驚きの表情を浮かべた。


「2人だけですか?危なくないんですか?」

「私も影人の頭領だよ、自分が狙われてるんだもの、覚悟は出来てるよ。それに、ガイエンさんが一緒だしね。」


 ヒューモは毅然とした表情の中にも、優しい笑みを浮かべてシバケンを見る。


「シバケンよ、お前さんのお陰で今日は思わぬ経験をさせてもらった。礼を言うぞ。お前さんとはこの村までの荷物持ちの約束だから、明日から奴らに狙われる事もあるまい。安心せい。」

「お二人からそう言われると、これ以上何も言えませんけど。。。本当に大丈夫なんですよね?」

「ありがとうよ。ワシらの事は気にせずとも良い。今日はこのままゆっくり休め。で、逆に質問だが、お前さん自身の事だが、明日からはどうするつもりだ?」


 確かに、人の心配をする以前に、自分の身の振り方を考えなくては。


「この村に腰を落ち着けて仕事を探すなら、ここにいるメルリーナも力を貸すし、この村を離れて旅に出るなら、旅支度の餞別ぐらいは用意してやるぞ。」

「ええ、ザルツベルから来たんだってね。ガイエンさんから訳ありって聞いたから、深く詮索するつもりは無いけど、この村に腰を落ち着けるなら、多少なりとも力にはなるよ。」

「ご親切にありがとうございます。」

「おい、シバケン。さっき酒呑みながら話聞いたけどよ、行くあてが無いなら、しばらくは冒険者ギルドに登録して金貯めたらどうだ?」


 プシホダの方を皆が見る。


「聞いたらスキル持ちだっていうじゃねぇか。放家(ほうけ)のスキル持ちなんて冗談みたいな奴、野放しには出来ねぇよ。」

「へえ?プシホダ、あんたにしちゃ珍しく優しい事言うじゃないか。」

「なに、ワイルと違って酒の話が出来そうな奴だからよ。」

「ありがとうございます。ガイエンさんとも来る途中でその話をしましたけど、冒険者ですよね?私、本当に戦ったりなんて出来ないですけど、大丈夫なんでしょうか?」

「安心しな。冒険者といってもそんな仕事ばかりじゃねぇよ。薬草集めやら、外壁の補修の手伝いやらの人足仕事も多いさ。それに、冒険者パーティの荷物持ちなんて仕事もあるから、ちょうどお前さんにはいいんじゃねぇか。」

「プシホダの言う通りだね。生活が安定するまでの間、さっきの部屋でよければ寝床は好きに使っていいよ。アタシ達と同じでよければ、食事も食べさせてやるしね。アンタみたいなのが1人増えた所で、ウチらに問題はないから、遠慮は無用だよ。」


 なんともありがたい申し出だ。

 これでこの世界での生活の姿が少し見えてきた。

 ただ、技術が無ければ体を動かすしかないのは、どの世界でも同じか。

 仕事選択の自由もあるみたいだし、どれぐらいの収入になるのかわからないが、この世界に慣れるまで冒険者として暮らしていくのも悪くない、とシバケンは腹を決めた。


「それでは、この村で冒険者になろうと思います。」

「おっ、そうか。それではメルリーナ、悪いが明日ギルドへ行ってくれぬか。支部長のお前が行くと登録も早かろう。」

「はい、分かりました。」

「ただ、あくまでもザルツベルからの難民で押し通した方がいいだろう。ザルツベルの田舎者ゆえ、この国の事は全くわからん、という事にして。まぁ、こやつの様子を見れば、不審に思われる事もないだろう。」

「承知しました。」

「シバケン、次に会った時、冒険者の話楽しみにしてるから頑張ってね。」


 ヒューモは自分の危難そっちのけで、楽しそうにシバケンに笑いかける。

 ガイエンもそうだが、他の2人ももうヒューモ達の心配をしている様子もなかった。

 図太いのか、本当に心配するに及ばないのか、シバケンにはその判断が付きかねた。

2022.9.3 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2022.10.30 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2023.4.23 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2023.8.20 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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