013 深夜の依頼②
「流石にそろそろ休憩するか」
ザッカリーナを出て、四刻(約160分)ほどを休み無しに歩き続けた。
シバケンはペースを上げたヨネールに付いて行くのに必死で、休憩という言葉を聞きホッと地面にへたり込んだ。
シマノフスキも疲れているだろうに、甲斐甲斐しく焚き火とハーブティーの準備をする。
クラレラさんのジャムを入れて、コップをシバケンに差し出す。
シバケンは、ほっと一息つく。
「シマノフスキ、全部やってもらって悪かったね。ありがと。」
「うん」とも「ん」ともつかない上の空の返事をし、シマノフスキもハーブティーに夢中になっている。
「お湯残ってるか?」
「ええ、ヨネールさんも、ハーブティーいかがです?」
「いや、大丈夫だ。ありがとよ。残ってるお湯を少しもらうぞ。」
そう言うと、ヨネールはお湯と何かの粉末を練り合わせ始めた。
辺りに青臭いような香りが漂ってきた。
「これは?」
「虫と獣よけの練り薬だよ。オレ独自の調合だから、ちょっと匂いはきついが、その分効果は保証するぜ。首周りと両手首に薄く塗りな。この先は、山道を突き切るからな。今のペースに付いて来られたのをみると、杣道もいけそうだからな。時間短縮よ。」
シバケンは鬱蒼と繁る森に目をやる。
この森に入るのか、と気が滅入る。
「荷車の通れる道を選ぶから、大丈夫さ。回り道するより、一刻半は時間を稼げる。2人とも練り薬は塗れたか?よしそろそろ行くぞ。」
ヨネールは、流石に少しペースを落としたものの、ずんずんと山道に分け入って行く。
ただ、的確に足場のしっかりした、荷車の通行が出来る道を選んで行くところをみると、この山を熟知しているようだった。
そのおかげか、山道を行くと言いながらも、シバケンは先ほどまでの強行軍より、余裕をもって進む事が出来た。
「おいおい、このペースでも全く問題なさそうだな。どうなってるんだ?」
しばらく進むと、ヨネールが振り替って呆れたように声を上げた。
「なかなかハードな道の筈なのに、スピードが落ちるどころか、慣れてきたって感じだな。」
どうやら、スキルのおかげで道の悪さの影響はほとんど感じなくなっているようだ。
最初の強行軍できつかったのは、単純に自分の体力が無かっただけのようだ。
シバケンは思わず苦笑する。
「スキルのおかげで問題ないですよ。もう少しスピード上げてもらっても大丈夫です。」
荷車の後ろを押すシマノフスキを見ても、まだ余裕の表情を浮かべている。
「わかった。助かるぜ。」
「ヨネールさんの報酬下がらなくて済みそうですね。」
軽口を交わしながら、スピードを上げる。
“アンジュの顎”に所属しているというが、支部が違うのでどうかと思ったが、メルリーナ達の事はよく知っているようだった。
話しているうちに、「お前が、あの」と、ヒューモとガイエンとの荷物持ちをした事を知り、複雑な表情を浮かべた。
ヨネールは、例のヒューモと敵対する派閥の人間なのだろうか?
その件について、お互いそれ以上踏み込んだ話を続けなかった。
「よし、あと少しだ。」
見晴らしのいい小高い丘に立ち、ヨネールは口を開いた。
シバケンはヨネールが指を指す方向を見るが、焚き火がほんのりと周囲を照らすのが見えるだけで、あとは遠すぎてよく分からなかった。
「もう終わっちまったみたいだな。予定通りか。よし、あとはあそこまで下りで一直線だ。行けるか?」




