012 深夜の依頼①
「シバケンって人いるか!?」
すっかり立て込んだ店内に、荒々しく扉を開けた男の声が響く。
不審そうにおカミさんが応対し、二言三言話をしたかと思うと、男をシバケンの席に案内した。
「よかった。あんたがシバケンかい。」
よほど喉が乾いていたのだろう、シバケンのグラスを取り、アッツ酒を一息に飲み干した。
「私がシバケンですけど。あなたは?」
「あんた、ゴモ村の冒険者のシバケンで間違いないな?」
「ええ、そうですけど、一体何が?」
「急な話で悪りぃな。急いでたもんでよ。オレはプリズメイン村の“アンジェの顎”のメンバーで、ヨネールだ。いま、“鱗の無い竜”のパーティと一緒に依頼を請けているんだが、急遽荷物持ちが必要になったんだ。パーティのリーダーから荷物持ちならアンタがいいって聞いたから、こうやってすっ飛んで来たのさ。」
「リーダーって、ヴィクター?」
「ああ、そうだよ。奴がアンタがこの集落にいるから、荷物持ちに雇えって。急いで現場に戻らなきゃならねぇから、突然で悪りぃが、早くしてくれ。」
「ちょっと待って。話が急すぎて。えっと、ヴィクター達の野盗の討伐はどうなったんですか?」
「ああ、今ちょうど討伐に向かってるところだ。ただ、今回の依頼は、冒険者ギルドとは別ルートでも話が来ててな。襲われた貴族が、大至急で盗まれたお宝を回収したいんだとよ。ただ、オレが調べた情報と合わせると、思いの外奴らの溜め込んでいるお宝が多いみたいなんだ。で、俺たちだけでは持って帰る事が出来ない量だから、専用の荷物持ちを別に雇う必要が出たって訳だ。簡単な話だろ?今から野盗の根城に行き、荷物を積み、プリズメイン村を越えて、タランテラ市の途中にある、その貴族の邸宅まで向かうのさ。報酬は金粒1顆(100,000ガン)。断る道理はないぜ。」
「野盗の討伐は?」
「心配すんな。俺達が奴らの根城に向かう間には終わってるよ。」
「そんな、いくらなんでも4人だけですから。」
「4人って、お前あのパーティを知らねぇのか?あいつらにとったら、10人程度の野盗の集団なんて問題じゃないさ。逆に俺達の戻りが遅くなる方が問題だ。ほら、さっさと用意しな。」
依頼を請けるとも請けないとも言う間もなく、シバケンとシマノフスキの2人はヨネールに急き立てられるようにドラナー亭を出た。
10人程度の野盗と聞くだけで不安になるが、ヨネールは全く問題にしている様子はなかった。
「半刻後にこの四ツ辻で待ち合わせだ。早く準備してくれよ。」
そう言って去るヨネールの背中をシバケンは見送った。
「準備と言っても、まだやるとも言ってないのに。」
「ヴィクター、大丈夫?」
「シマノフスキも心配だよね。10人程度って言いながら、その10人の実力も分からないから、単純に人数では決められないとは思うけど。とりあえず、荷車の準備しようか。シマノフスキは部屋から荷物持ってきて。あと、金棒も忘れずにね。」
「うん」と頷き、シマノフスキはドラナー亭に戻っていった。
シバケンは預けてあった荷車を受け出すと、麻袋とロープを用意する。
2人分の荷物を担いできたシマノフスキが出てくると、荷台にそれを広げる。
「麻袋が少なかったから補充するのと、えーっと、包帯と薬草はあるし、携行食はあるな。夜の山だから、毒消しはあった方がいいのかな。あと火口も買っていこうか。それから、、、」
「クッキー。」
「はは、シマノフスキは気に入ったみたいだね。でも、こんな時間にクラレラさんのお店はやってないと思うから、今から行くお店にあれば買おうね。あとは身体が温まるようにハーブティーの茶葉も買っていこう。」
手早く荷物をまとめると、マクナの店に向かった。
マクナは接客もせずに商品をせっせと棚に並べていたので、シバケンは仕事の邪魔にならないように、手短に買い物を済ませる。
そのマクナの店から四ツ辻までが、この集落のメインストリートとなっているので、薬草屋に寄るのにも都合がよかった。
店仕舞いをしようとしていた菓子屋にも滑り込みで間に合い、売れ残りのクッキーを13枚まとめて10枚の価格で買うことが出来た。
四ツ辻に着くと、ヨネールが腕を組んで待っていた。
「遅いぞ。オレの帰りが遅いと、あいつらから依頼料の値下げを言われかねないから、早く帰りたいんだ。もう行けるか?行くぞ。」
シバケン達の返事も待たずに、ヨネールは歩き出した。
ペースを合わせる気もないようなスピードなので、シバケン達も慌ててその後を付いていく。
「依頼料の値下げですか?」
「ああ。あいつらがそうだとは言わねぇが、割のいい値段を提示して、後から難癖つけて値下げするパーティも多いからな。シバケンはそんな奴らに出会ったこと無ぇのか?」
「ええ、おかげさまで。でも、彼らの指示でここまで戻ったんですよね?」
「ああ。だが本来のオレへの依頼は、野盗に関する情報収集と根城の探索。討伐中の周囲の警戒の3点だからな。その3番目の依頼がやれてねぇだろ。だから、焦ってるんだよ」
「その3番目の依頼が、僕らを連れて来るってのに変わったんじゃないですか?」
「ああ、その理屈が通じる奴らならいいんだがな。とかく討伐とかの後は気が立ってるし、それに少しでも討伐の際に思惑が外れてるとそのイライラをこっちにぶつけて来る冒険者が多くてよ。」
「そんな理不尽な、、、」
「こっちとしても、断ったら飯の食い上げだからな。まぁ、あんまり無茶な連中だと、盗賊ギルドの上に話を上げて、冒険者ギルドとの談判をするけどな。ところで2人共、このペースでもまだ余裕があるみたいだな。6級って聞いて心配してたんだが、よし、それじゃスピードあげるから、付いてこいよ。」
2022.9.18 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




