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011 宿に戻ると③

「親父さん、彼らは?」

「“鱗の無い竜”って冒険者パーティの連中だ。」

「それじゃ、ヴィクターってのは?」

「ん、ヴィクターを知ってるのか?あぁ、クラレラ婆さんのところで会ったのか。あいつはあの近所で生まれたから、この集落に帰ってきても、あいつだけ宿に泊まらねぇんだよ。」

「そうなんですか。彼らはよく来るんですか?」

「依頼で立ち寄ったりはあるけど、今回みたいな泊まりってのは珍しいな。近頃街道を少し外れたところで野盗が出るって、シバケンも冒険者なら知ってるだろう?」

「ええ。」


 確かそんな依頼が、掲示板に出ていたような。

 ランクの高い依頼なので、流し見程度でしか確認はしていない。


「その野盗討伐の依頼だとよ。この集落を拠点にして探索する予定が、さっきの様子じゃ、早速見つかったらしいな。」

「今から自警団と合流して討伐ですか?」

「いや、あいつらだけだろう。」

「えっ?ヴィクターさん入れて4人ですよね。」

「ああ、そうだな。だが、あいつら“鱗の無い竜”のメンバーは、ヴィクター以外も名うての連中だ。オレも噂話しか知らねぇが、今度1級の冒険者になったって話だ。シバケンは冒険者仲間から聞いてねぇか?」

「ええ。同業者としては、恥ずかしいんですけど。」

「そうか。1級パーティっていっても、拠点が違うとそんなものかもしれねぇな。あいつらの話、聞きてぇか?」

「ええ、ぜひ。」

「よし、わかった。それじゃ、今夜の酒の肴はあいつらの話だな。ちょっと待ってな。すぐに仕込みを片付けちまうから。」


 そう言うと、ドラナーは厨房にいそいそと戻っていった。

 シマノフスキは、身体が温まって、甘い物を食べて満足したのかウトウトしていた。

 それを見ているうちに、シバケンも瞼が重くなってくるのを感じた。

 テキパキと食堂の掃除を済ませ、干してある洗濯物を取り込むおカミさんと、厨房では真剣な顔で食材を吟味し下拵えをするドラナー。

 言葉は交わさないが、ずっとこうやって暮らしてきたという、二人の凛とした職業意識が心地よかった。

 シバケンは気持ちよく2人の仕事振りを眺めていた。


「お疲れだね。はい、温めた程度だからそのまま飲めるよ。」


 おカミさんの声で、シバケンはハッと目を覚ました。

 寝るつもりはなかったのだが、いつのまにか眠ってしまったようだった。

 シマノフスキも隣でモゾモゾと動き出した。

 2人が寒くないように、まだお客さんが来ていないのに、薪コンロに火を入れてくれていた。

 薪コンロの上には鍋がかかっており、美味しそうな匂いが漂っている。

 シバケンは、おカミさんが出してくれたマグカップに手を伸ばす。

 白いスープだが、ミルクのような香りはせず、ナッツのような香ばしい香りが口に広がった。

 それがしっかり出汁のきいた薄く塩で味付けをしただけのスープによく合い、喉の奥から胃までを優しく包み込む。

 しみじみ美味い。


「これは?」

「ダイズを粉にして軽く炒ったのを、ギャパンのスープに混ぜて軽く塩で味付けしただけよ。店で出す料理じゃないわ。ほんの簡単な家庭料理よ。でも、気に入ったんならよかったわ。」


 ダイズって、大豆か?

 だが、たしかに粉にして炒ったのなら、ナッツだと思ったのもわかる。

 きな粉と言われるとしっくりくる。

 まさか、この世界できな粉に出会えるとは。

 となると、大豆を挽いて水を入れ加熱したら豆乳になるはず。

 で、さらに加熱したら湯葉が作れる。

 酒呑みとして、なかなか夢の広がる話になりそうだった。

 こうなると、しっかり自炊していた訳じゃないのが悔やまれる。


「どうしたのさ、シバケンさん。ニヤニヤして。」

「いや、ごめんなさい。ところで、このダイズってのはどこにでも売ってる物ですか?」

「もちろん売ってるわよ。でも生じゃなく乾燥したやつだけどね。欲しいの?」


 一晩水に漬ければ大丈夫だろう。


「少しでいいなら、うちのをあげるわよ。自炊するなら、明日の朝食は抜くけど、どうする?」

「いえ、昔の事を思い出して、久しぶりに食べたくなって。ただ、うろ覚えなのでうまくいくかどうか。」

「へぇ、たしかシバケンさんはザルツベルの、、、」

「何、ザルツベルの料理か。そりゃオレも気になるな。どんなだ?」


 そういえはそんな設定だった、とシバケンは思い出す。


「いや、そんなに一般的に食べられていたかどうか。むしろ、ウチの家だけで食べてただけかも、、、」


 とシバケンは口を濁すが「そんな事はいいから」とドラナーに促される。

 珍しくシマノフスキも「食べてみたい」と口に出したので、こっそりお試しの筈が、皆へのお披露目となってしまった。

 特におカミさんは乗り気で、「これぐらいでいいかしら」と、早速ダイズを倉庫から持ってきた。

 色といい形といい、見た目はまごう事ない大豆だった。


「どうやって作るの?」

「まずダイズを一晩水に漬けて、柔らかくなったところに水を少しずつ加えながらペースト状になるようにすり潰します。そして少しとろみがつく程度まで水を入れたら、加熱して終わり、の筈です。」

「えっ、それだけなの?ダイズと水しか使って無いじゃない。味付けは?スープみたいに飲むんでしょ?」

「いえ、加熱すると、表面に膜を張るので、その膜をすくって塩をつけて食べるんです。」

「まぁ、面白そう。表面に張った膜を食べるなんて。」

「ダイズの膜を食べるだって!?ザルツベルからの旅行者とも話をしたことあるけど、そんな料理聞いた事もねぇな。ごく一部の地域の郷土料理か。お前の母ちゃんのオリジナルか。何にしても、簡単に出来るから、明日楽しみだな。ちょっと待ってろ、用意するから。」


 甕に水を張り、その中にダイズを入れる。

 シマノフスキが甕を覗いた後シバケンの顔を見て「楽しみ」と笑いかける。

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