【12/12コミックス発売記念】体質改善、しませんか?
「ロレッタ、何を真剣に読んでるの?」
昼下がりのリビング。バルトルに声をかけられ、ハッとする。いつの間に戻ってきていたのだろう、ちっとも気が付かなかった。
「ええと、これは外国の健康療法についてまとめた本で」
「外国の? 健康療法?」
バルトルは目を丸くして首を傾げる。
「末端の冷えの解消について調べようと思って……」
「末端の冷えの……解消……」
はた、とバルトルは片眉をしかめる。
「もしかしなくても、それは、僕のことかい。ロレッタ」
「そうです、あなたの尋常でなく冷たい指先のことです」
なぜかバルトルはバツが悪そうに苦笑すると、ソファに座る私の隣にどっかりと座り込んだ。バルトルの体重分、ソファがぐっと沈み込む。
「君ったら、いつも心配するよね。もうずっとこうなんだからそんな気にしなくても」
バルトルは少し子どもっぽく唇を尖らせながら言う。
彼としては、耳にタコなのだろう。そして、あまり改善する気はない。案外バルトルは大雑把で面倒くさがりなのだ。情熱は魔道具に向けられていて、ほかのこと、特に自分のことに関してはかなりおざなりである。
「バルトルはいつもそう言いますけど、やっぱり解消できるなら解消できたほうがいいじゃないですか。もう寒い季節になると毎年毎年、ビックリします」
「僕にとったらこれで当たり前だからどうとも……」
「もう、バルトルはいい加減なところは本当にいい加減なんですから」
「いい加減って」
バルトルは「えぇ?」と軽く苦い顔を浮かべながら頭をかいた。
「言うようになったね、僕の奥さん」
「もう、また誤魔化そうとして」
「いやいや、ほんとに感心したんだって。僕のことをよくわかってくれてて嬉しいよ」
「そういう言い方ばっかりして……」
「誤魔化そうとしたわけじゃないよ、信じてよ」
バルトルがそっとわたしの頬に触れる。
「……冷たい……」
「えっ、あ、ごめん」
思わずみじろぐと、バルトルはハッとした顔で手をひっこめる。
「ほら」
「えっ、ほら、って、なに?」
「バルトルったら、自分の手の冷たさを自分でわかってないんですから。そんな手で触られたらビックリします」
「ええぇ?」
バルトルは眉をおおげさにゆがめて苦笑する。
「こんなに手が冷たかったら、細かい作業をするのにも苦労するでしょう?」
「だから、そういう時はちゃんとあっためてからしてるって。さすがに僕だってしくじって指がなくなったら嫌だし……」
「でも、本当はそれも面倒くさいって思ってるでしょう? だったらやっぱり、体質改善が一番いいと思うんです」
「ええ、いやいや、絶対そっちのがめんどう……」
「やってみても損はないでしょう? 試すだけでも、ね?」
うーん、とバルトルは考え込む仕草を見せたけれど、すぐに小首をかしげ、私の気持ちを探るように顔を覗き込んできた。
「君に触れてたら自然とあったまるんだけどなあ。ねえ?」
バルトルの例の冷たい手がわたしの手を取る。反射的に、やっぱりわたしはビクッとなる。けれど、バルトルはしっかりとわたしの手を掴んで離さない。
ちなみにわたしは人よりも体温が高いほう……だと思う。
バルトルはニコニコと「ロレッタはあったかいなあ」と微笑んでいる。
「バルトルはそのたびにわたしはビックリしちゃってもいいんですか?」
「……なかなか流されにくくなったね、ほんとに。僕の奥さん」
「何年も一緒にいたらこうもなります。あなたはああ言えばこう言いますもの」
「口が達者な君もかわいいよ、ロレッタ」
そっとバルトルが顔を寄せてくる。チュッとわざとリップ音をたてて口づけをされた。
至近距離で目が合うと、美しい碧眼がニッといたずらっぽく細められた。
「……それで、この本に書いてあったんですけど、まず指先が冷えやすい人は血行が悪いことが多いんですって。血行の改善には食生活と日頃の運動が大切だそうで、このページに……」
甘やかな視線を無視して、わたしは読みかけだった本の見開きを指さす。バルトルはなんだか期待が外れたようで「はあ」とため息をつくと肩を落とした。
「諦めないねぇ、君。もう少し流されてくれたっていいじゃない」
「あなたのことがこれだけ心配なんです。あなたの手が温かくなったら、わたし、今よりもっとあなたにくっつきにいきますよ」
「……そんな言われ方したら、これで面倒くさがったら僕が君とくっつきたくないみたいになるじゃないか」
「ね? 少し、やってみようと思いませんか? ちょっとでもよくなったらいいでしょう?」
「仕方ないなあ、わかったよ。で? 何をしたらいいって書いてあるんだい」
「はい、じゃあ、このページですね」
……バルトルは「僕の手の冷たさは筋金入りだから」「何しても治らないと思う、というかこういうのは治る治らないとかじゃないと思う」だとかさんざんぼやきつつも、わたしが勧める『指先の冷え改善方法』の話を聞いてくれた。
(少しでもよくなるといいんだけど……)
内心ちょっと無理かも。やるやるって言っても三日坊主で飽きちゃうかも――なんて思いつつも、こうやってバルトルと一緒に本を読みながら「これをやってみよう」「これがいいんじゃないか」とやりとりしているだけで楽しいし、何事も、やってみるのが大切なことだと思うから。
ちょっとだけでも改善されるといいなあ、と思いながら、私はバルトルの意外とゴツゴツとした皮が厚く硬くなっている指先を見つめるのだった。
また手が冷たいって話ですか!?って感じなんですが、私は…その…それがフェチで…何度でも擦りたいので擦りました。すみません。サビです。
私、手フェチなんですが、手って造形もですが、温かい、冷たい、手荒れしやすい、丈夫とかで無限に萌えますよね。ロマンに溢れてる手。手には人生が出る、だから好き。
バルトルはきれいな顔してるのに意外と手はゴツゴツとしてて指先の皮が硬く厚くなってるの萌えと末端冷え性萌えで書いてます。
私の萌えはさておき、12月12日、清瀬のどか先生によるコミックス1巻が発売されます!
とても美しくすばらしい世界観でコミカライズしていただいておりますので、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです。紙はもちろん、電子配信もありますのでお楽しみしやすい形で読んでいただけましたら…!
バルトルがとってもかっこよく、ロレッタがとても健気でかわいらしいので多くの方に読んでいただきたいです!
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PS.昨日別の長編作品を完結させています。よろしければそちらもご一読いただけましたら嬉しいです!(ページ下部にリンクあり)






◆アース・スタールナさま特設ページ
