【書籍発売お礼SS】バルトルの冷たい手
3月1日に書籍が発売されました。
遅くなってしまいましたがお礼の気持ちを含めまして短いですがSS投稿いたします。
「バルトル、こんなに手を冷やして」
「うん?」
寒い冬の日。外から帰ってきたバルトルを迎えたわたしは、彼の手のあまりの冷たさに驚愕する。
冷え性だということはよく知っているけれど、それにしても、バルトルの手は氷のように冷たくなっていた。
「……こんなに冷たくなっていたら、痛くありませんか?」
「僕にとったら当たり前のことだからあんまり気にならないんだよね」
バルトルはあっけらかんと笑う。
案外と、バルトルは自分のことについてはいい加減というか、雑というか、適当だったりする。よく言えばおおらかとも言えるかもしれない。
「君の手はあったかいなあ」
「……バルトルの手が冷たすぎるんです」
バルトルの手を両手で覆いながら、わたしは眉をしかめた。
バルトルはニコニコと笑っている。
「温かい飲み物を飲みましょう。あと、電気毛布を持ってきますね」
「あったかい飲み物は欲しいけど、毛布はいらない」
電気毛布はいらない、というバルトルに思わず「えっ」と返してしまう。
「君の手であっためてもらうほうがいいもん」
「……わたしの手より、電気毛布の方が温かいと思いますが……」
「そんなことないよ。君の手にぎゅってしていてもらったほうがあったまる」
そうかしら? と怪訝な表情を浮かべていると、頭上からはクスクスと笑う声が聞こえてきた。
顔をあげると、優しく目を細めたバルトルを目が合う。
自分で言うのもなんだけれど、愛おしげに見つめる眼差しに頬が紅潮するのを感じた。
「あ、ほら、ちょっと熱くなったね」
「も、もう。そんなことばっかり」
「絶対こっちの方があったまるよ、ね? 僕もドキドキするから」
「そうは見えませんが……」
「ドキドキしてるよ、ちゃんと体温も上がってる。もう氷みたいに冷たくはないはずだ」
「……ずっと手を握っているままだから、よくわかりません」
「あはは、そっか」
そう笑うバルトルの声は嬉しそうだった。
「お仕事しているときに支障はありませんか? こんなにカチコチに冷たくなっていたら」
「まあ意外となんとかなるよ。さすがの僕もあまりにおぼつかなかったらちゃんと手温かくしてから作業するし。さすがにそこまでいい加減じゃないよ、僕だって」
「本当に?」
「……うーん。何度か、うまく手が動かなくてやらかしたことも、実は、あるけど。まあ、この通り指は五本、両手とも無事だよ」
「……バルトル」
指と指が絡むように握り直して、ニッと笑うバルトルだけど、わたしは少し呆れて眉間にしわを寄せてしまった。
「本当に、危ないですから、お仕事されるときはちゃんと手を温めて、気をつけてしてくださいね」
「うん。君とこうやって手を繋げなくなったら嫌だからね。ちゃんとする」
「……」
『私と手を繋げるように』云々ではなくて、本当に気をつけてほしいのだけど、わたしは目を細めて、どこかのほほんとしているバルトルを見つめるしかなかった。
「また明日も、帰ってきたらこうやってあっためてくれる?」
「……はい。ですから、どうか事故はありませんように」
「肝に銘じるよ。君と約束をしていてやらかすような男じゃないよ、僕は」
もう、と思いながらも、バルトルの甘えたような表情がどうにも愛おしくて、わたしはため息をついて彼の手をぎゅうと握るのだった。
色々とあってすっかりお礼が遅くなってしまいましたが、おかげさまで書籍が3月1日に発売となりました!
すでにお手にとっていただいた方いらっしゃいましたら、改めまして、ありがとうございます。
たくさん加筆もさせていただきました。どうか楽しんでいただけておりますように。
アース・スタールナ様より発売され、書店さんやAmazonなどのネット通販、また電子書籍サイトでも配信がされているようです。
お手に取りやすいところでどうかお気軽にお手にとっていただけましたらとても嬉しいです!
花染先生が描いてくださったイラストが本当にかわいくて美しいです…。
特典などもあるのですが、情報は公式サイトにまとめていただいておりますのでよろしければページ下部のリンクからご確認いただければと思います。
拙作が書籍化となりましたのはWEBでみなさんに読んでいただいたおかげだと思っております。応援ありがとうございました!
コミカライズの企画も進行しておりますので、私もとても本作のこれからを楽しみにしております!






◆アース・スタールナさま特設ページ
