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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  第四章  1 ーー 町の雰囲気 ーー

 九十八話目。

   やっと、やっと、やっと出られる。

    長かった。

    ……ってか出番あるよね?

          第二部  


  

          第四章



           1



 偶然出会ったルモイの話から、タレスという町にはいいイメージを抱くことはなく、警戒を強めて訪れた。


 どれだけ乱暴な住民が暮らしているのか、と怯えも多少あったのけれど、ただの杞憂だったらしい。

 おそらく、ルモイは恨みから悪い印象を抱いていたのだろう。

 平凡で、穏やかな町並みに安堵して歩き、向かったのは酒屋。

 まずは腹ごしらえ。

 でなければ、エリカがいつ爆発するか危ういものだ。

 しばらく野宿が続いていたので、エリカは干からびる寸前であろうから。

 店員が目を剥いて何度も聞き直していた量の料理がテーブルの上に並べられていく。

 満足げにナイフとフォークを持つ姿からすると、大丈夫だろう。

 また五人前はある量に、胃もたれがする前に自分の食事といこう。


「しかし、なんでいきなりマントなんか買ったんだよ?」


 テーブルの向かいで悠然と食事を楽しむリナに、素直に聞いた。

 実は、酒屋に入る前にリナは一着の赤いマントを買っていた。


「だって、先生が言っていたでしょ。あの青い連中がこっちの地方では多く目撃されてるって。だから、身を隠すためよ。ほら、私って盗賊だからね」


 楽観的に喋るリナに、ため息がこぼれそうになる。

 自慢できることじゃないだろ、と。


「だからって、なんで赤なんだ? かえって目立つんじゃないのか?」

「ーーそう? 赤って可愛いじゃん」


 人の心配を気にせず、呆気に取られた。

 どうも危機感がないように見える。

 今回ばかりはエリカと一緒に食事を楽しんでいるのだから。

 エリカは次に何を食べるか迷うなか、リナはお茶を飲んで寛いでいる。


「でも、久しぶりの町だし、ちょっと休みたいわね。シャワーも浴びたいしね。先生の街じゃ、すぐに出発していたから」

「それは絶対」


 願望を口にするリナに、エリカも同調し、大きく頷いた。

 まったく。やはり緊張感はないな。

 まぁ、確かに夜はベッドでゆっくり寝たいけど。

 空腹も満たされ、確かに望みは生まれる。これじゃぁ、二人のことを強く言えない。

 お茶を一口飲み、店内を見渡した。

 これまでいくつもの酒屋でご飯を食べてきたけれど、それらの町と別に変わりはない。

 どの席も埋まっていて、各々がグラスを交わし、楽しみ、賑わった声が湧いている。


「でも、何かを抑制されている雰囲気はないよね」


 リナはメガネのつるを触りながら、店内を見渡す。僕と同じ感覚でいるらしい。


「やっぱり、あの男のただの被害妄想だったんじゃないの」


 かもしれない、と納得してコップに入ったお茶を揺らしていると、料理に夢中になっていたエリカが不意に顔を上げた。

 遠くを眺め、何かを探るように瞬きをしていた。


「ーーでも、まだ変な感じはする」

「変って何が?」

「うん。なんか空気が違うの」

「空気って、テンペストのことか」


 どうしても声が籠もってしまう。

 テンペストと聞いて、不審に思われるのを避けて。

 しかし、エリカは眉をひそめる。


「さっきからそうだけど。なんか空気が違う。なんか薄くテンペストを感じてしまうような……」


 おそらくエリカ本人も納得できる説明ができないのだろう。

 食事を止めて悩んでいるのは珍しい。


「……空気か」


 外を眺めていると、空の機嫌はよさそうなのだが、本人が言うのならば、そうなのだろう。


「どうなんだろうね。聞いてみる?」

「ーー聞くって?」


 唐突に言うリナは、僕がキョトンとしている間に手を上げ、店主を呼んだ。


「ねぇ、オジサン、この辺りでテンペストって頻繁に起きたりするの?」


 注文かと期待を抱いて来た店主の眉が微かに歪んだ。

 平静を装っているのだろうけど、やはりテンペストは口にしたくないのだろう。


「いや、この辺りじゃそんな被害はないはずだよ」

「祭りをやっているから?」


 戸惑いを隠せない店主に、遠慮ない問いをぶつけるリナに圧倒されそうになる。

 いつ不穏がられてもいい雰囲気に落ち着かない。

 僕は焦りを気づかれないようにコップに口を当てて顔を隠した。


「まぁね。祭りはしっかりしているよ。やっぱりそれだけは欠かせないからね」


 祭りと言ったとき、店主の頬が歪むのを見逃さなかった。

 ついコップを握る手に力がこもる。

 別にルモイの肩を持つ気にはなれないけれど、静かに怒りが胸の奥底に湧き上がってくる。

 店主はどこか嬉しそうに話しているが、祭りの裏で生け贄として誰かが命を落としているをわかっているのか。


 ーーふざけるな。


 声が出る寸前のところで、喉で止まった。

 テーブルで隠れていた腰の辺りを、隣で座っていたエリカが軽く叩いた。

 ハッとしてエリカの横顔見ると、微かに頷く。

 そして、テーブルを叩く小さな音がした。

 音を追うと、リナが右手の人差し指でテーブルを小さく突いていた。

 二人して僕を制止していた。


「オジサン、ありがと。祭りが行われているなら、私らも安心だし。あ、それとコーヒーを三つお願いね」


 リナが上手く話を回すと、店主は注文が増え、嬉しそうにカウンターに戻った。

 店主がカウンターに戻るのを見送った後、嘆くようにため息をこぼした。

 正面に向き直すと、呆れた顔で僕を見た。


「あんた、人のこと偉そうに言えないよ。すごい顔で店主を睨んでいたわよ」


 リナに指摘され、唖然となる。

 そんな意識はしていなかったのだけれど、隣でエリカが強く頷いた。

 そうなのか、と申しわけなく頭を下げると、二人から得意げに満面の笑みを献上されてしまう。

 つい頭を抱えてしまう。

 本当に無意識だった。




 注文したコーヒーが運ばれて数分。

 エリカだけがまだ食べているなか、僕とリナはコーヒーで寛いでいた。


「ーーで、これからはどうする? ルモイが言っていたーー」

「ーー大変だっ」


 これからを相談しようとしていると、突然入り口が開かれ、一人の男が勢いよく飛び込んできた。


「あのバカ、大変なことをやりやがったっ」

 長かったか?

    章としては短かったと思うけど?

  では、新しい章もよろしくお願いします。

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