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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  三 ーー 決別の決意 ーー

 九十七話目。

  あれ? これって期待を持っていいのかな?


 ナイフを置いておくことは、ある種の決別なんだと自分に課していた。


 自分の身を、リナの身を守るためにと、所持していたナイフを手放す。


 それはこれまでの自分との決別するために。

 

 そう思っていた。


 ホコリを被った狭い家。

 リナと住んでいた街から出ようとすると、リナの気配を感じ、部屋に戻ってしまう。

 

 そして訪れた早い再会。

 リナの顔を見ると、心が引き裂かれそうで苦しかった。

 自分で決意していたはずなのに。


 そんなこと言わないで。

 惑わさないで。


 リナの言葉に何度も心で反論して拒絶した。

 だから冷たくあしらった。


 嘘なんか言っていない。

 迷っているつもりもなかった。

 それなのに、

 リナの顔を見ているのは辛かった。


 そう、これで最期なんだよ、リナ。




 町の外れにセリンは待っていた。


「もう、いいのですか?」

「言ったでしょ。別に敬語なんか使わなくてもいいって」

「いえ、これは俺のケジメなので」

「ま、別にいいけど」


 強く言っても無理みたいね。仕方ないわ。


「ミサゴは?」


 その場にはセリンしかおらず、辺りを見渡して聞いてしまう。


「あいつはバカとしか言えません。また遊びに行ってしまいました」


 嘆くように言うセリンに納得してしまう。

 確かに身勝手さは容姿から伝わっていたので、気にもしていないけど。


 それよりも……。


「……未練がありますか?」


 街を眺めていると、セリンに問われて唇を噛んだ。

 ……未練か。


「確かにそうかもね」


 素直に認めて頷いた。


「だってそうでしょ。これまでずっと二人でいたんだから」


 責めるつもりはないけれど、つい語尾に力が籠もってしまう。 

 すぐにかぶりを振った。


「でもいいの。私はもう決めたから」

「そう、ですか」


 毅然とするセリンの姿を見ていると、ふと疑問が浮かんでしまう。


「あなたはいいの? あの二人もいるみたいだけど」


 キョウとエリカ。

 そしてセリン。

 ちょっと気にはなっていたけれど、セリンに反応はなかった。


「……勝手なことをしてすいません」

「……いいの。あなたが必要と思ってやったことでしょ。私も今なら……」

「……そうですか。なら、俺も大丈夫です」

「そう? じゃぁ、行きましょうか」


 深く追及はしないでおこう。


 お互い、後ろを見ている間はないみたいね。

 もう、前に行くだけ……。

 残念。またダメだったな。


 さて、今回で三章が終わりになります。

 次回、新たな章に入ります。

 よろしくお願いします。

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