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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき
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 第二部  第三章  4 ーー 矛盾 ーー

 九十六話目。

  キョウ、なんなのこれ?

   なんで?

     なんで?

           4



 信念は曲げられない。

 自分は間違っていないんだ、と何度も言い聞かせるために、呪文みたいに「大丈夫」だと唱えていた。

 それなのに、ゆらゆらと気持ちが揺らいでしまう。

 ロウソクの火みたいに。

 屋敷の廊下には静寂が戻っていた。

 気のせいか、さっきよりも薄暗く感じてしまうなか、柱に凭れて動揺している自分を叱咤した。

 黒マントが伝えたかったのはなんなのか?

 自分たちの行いに対しての宣戦布告。

 ローズの言葉を借りれば。

 なら、お前たちは何が目的で行動している?

 アイナの目的はなんだ?

 問いただしたいことはいくらでも浮かんでいた。

 でも、それが口を突いて出る前に、黒マントは唐突に姿を消した。

 怖じ気づいて問うことができなかった。

 黒マントに指摘されたとき、悔しさに打ち砕けてしまいそうになった。

 俺のなかにある矛盾を貫いていたから。

 いずれ世界を束ねることを望んでいる。

 でも、それを達成させるために、小さな争いを生むのは望んでいない。


「……本当に矛盾しているな」


 これまで気づくこともできなかった。

 小さな蚊が肌を刺し、痒みを生むことによって、そこに改めて気づかされた。


 自分たちは間違っているのか?


 バカらしい。


 黒マントが消えた後、憤るローズと、イシヅチに弱々しく問うと、ローズが怒りを吐き捨てるように憤った。

 私たちは間違っていない。


 騒ぐ奴、みんな黙らせればいいだけ。


 ローズに同調するように、イシヅチも吐き捨てると、二人してその場を去った。

 俺からすれば、二人は黒マントに論破されたことの方が内容よりも耐え難いみたいで、悔しさで去ったように見えた。

 どうも二人は黒マントの言葉は響いていなさそうだ。

 呆れる反面、動じない姿勢は羨ましくもあった。


 動じるな。


 自分の信念を信じ続けろ。

 何度も言い聞かせてはいるのだけれど、積み重ねられた積み木みたく、危うい状況であることを痛感していた。


「隊長、何かあったのですか?」


 暗い廊下をながめていると、アオバの声がどこかから飛んできた。

 顔を上げれば、目の前にアオバが心配そうに首を傾げていた。

 動揺を悟られまいと、手の平を見せて制した。


「大丈夫だ。何かあったのか?」


 まさか、黒マントが別の場所で騒ぎを起こしたのか?

 不安を隠しながら聞くと、アオバは顔を伏せる。

 まさか、と窓から外を眺め、町の様子を伺った。

 幸いなことに煙が上がっていたり、騒ぎが起こっている様子はない。

 胸を撫で下ろし、また柱に凭れた。


「大丈夫ですか? お疲れのようですが」

「いや、大丈夫だ。それで、どうした?」


 あくまで冷静を保ち聞くと、アオバは唇を噛んだ。


「カサギのことなのですが……」

「あぁ。死んだことか……」


 言い淀むアオバに代わり、結論を述べると目を丸くした。


「……さっき、ローズから聞いた」


 先ほどの経緯を話すと、アオバは「そうですか」と言葉を呑んでしまう。

 もちろん、黒マントのことは伏せておく。

 カサギは自分の部下であるため、責任はある。

 きっと、ローズらの部下らが嫌味を広げているのだろう。


「何か文句を言っている奴でもいるのか?」


 自虐を込めて聞くと、アオバは眉をひそめて首を振る。


「ほかに何かあるのか?」


 アオバの態度からして、気がかりになると、アオバは黙って頷く。


「実は最近、兵士が行方不明になる事例が起きているんです」

「行方不明? 誰かに拉致でもされたのか」


 きな臭い事例に声に力が入ると、アオバは一度目を瞑る。


「それが一人、二人の数じゃないのです。一度に三十、四十という規模の兵士が消えているのです」

「そんなに? 何が起きたんだ?」

「わかりません。ただ、忽然とそれだけの兵士が消えているだけで」

「それはいつだ?」

「それぞれバラバラだそうですが、最初に確認されたのは、三十日ほど前らしいです」

「……三十日前……」


 どうも気持ち悪さが拭えない。不安がこぼれないように、口元を覆うのがやっとで、何か見えない不穏な存在がうねっているみたいで気味が悪い。

 そして、それが何を訴えているのかが引っかかる。

 何を訴えているのかが見えないために余計に。

 ……僕に当たるな。

    僕を責めたって意味ないんだし……。

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