表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/352

 第二部  第三章  1 ーー ローズにイシヅチ ーー

 九十三話目。

  私って勘が鋭いって思ってるけど、なんか今回はこれまでで一番胸騒ぎがする。

           第二部


           第三章



            1



 甲高い足音が廊下に反響する。

 音が鳴るほどに、廊下の冷たさが足裏を伝わり、体が固くなっていく気がしてしまう。

 問題が起きなければいいのだが。

 得体の知れない寒気が背中に這い、不穏な予感がよぎってしまう。


 窓の外に広がる街並みを眺め、穏やかな光景を嘲笑うように胸を締めつけている。

 このまま静かに時が流れほしいなか、廊下の柱に凭れている者を捉える。


「久しぶりね、アカギ。元気だった?」

「嫌味は止めろ。気分が悪くなる」


 会うたびに突っかかれていらば、こちらの身が保たないものだ。まったく……。

 鋭い言葉のせいか、どうも見下してきたのは一人の女。

 肌白さに映える蛇みたいであり、吊り上がった目に睨まれると、否応にも背中に寒さが走る。

 横暴な態度で腕を組む姿のせいか、どこか萎縮させられる。

 俺と大して背丈は変わらないのだが。

「ローズ。こいつには無駄だ。甘いことしか考えていないから」

 まったく、どうしてこの二人が一緒にいるんだ。今日は厄日か何かか。

 嫌味を言っていたのはローズ。

 さらに俺を蔑んでくるのは、細身のローズの影から出て来た一人の男。

 イシヅチ。

 ボサボサの髪を激しく掻きながら、面倒そうに吐き捨てた。

 見た目では子供みたいに幼いのだけれど、態度だけは……。

「ふん。お前らも仲がいいんだな。人を蔑んでいても、仲間意識は強いってことか」

 腰のポケットに手を入れ、仰け反ると皮肉ってみた。

 どうも、こいつらは苦手である……。

 こいつらには平常心で向かい合うのは逆効果だろうから。


「こんなところで俺らが争っても意味がないだろ。早く奥に行かないのか」


 ここで争うなも厄介なので、二人を無視して足を踏み込んだ。

 すれ違い際、ローズが鼻で笑う。


「……カサギが死んだわ」


 普段、廊下に響くのは甲高い音が鈍い音に変わる。


「ーーなんだって?」


 看過できない言葉に眉をひそめる。


「今、なんて言った?」

「だから、カサギが死んだのよ」


 ローズの口調に刺々しさが増した。

 冗談のつもりはないだ。

 ローズが組んでいた腕に力がこもり、めり込んでいるのが何よりの証拠である。

 目つきも蛇から鷹みたいに黒くより険しくなる。

 何より、カサギは俺の直属の部下。

 なぜ、そこまで気がかりになるんだ。


「奴が? なんで?」


 無視をしたいのだけれど、邪険にできず振り返る。


「おそらく殺されたんだろ」

「ーー殺された?」


 横にいたイシヅチが回り込み、壁に凭れると、乱暴に吐き捨てた。


「見つけたのは僕の部下だった。アルテバの町の近くで倒れてた。仲間もろともね」

「いつのことだ?」

「かなり前だ。もう三十日は経っているだろう」

「アルテバって、あいつは確かリキルの辺りじゃなかったのか」

「えぇ。おそらくその後にでしょうね」


 カサギ。

 狡猾な奴で、どこか人を蔑むやつであり、部下でありながらも、どことなく避けている部分もあった。

 性格に難があっても、簡単にやられる奴ではない。 実力のある人物であり、対等に立てる人物はさほどいない。


「面白いな。カサギを殺るほどの奴がいるなんて」


 正直、驚きもあるが、本音としては少し安堵している自分がいる。

 カサギは危険な人物であり、いつどこで問題を起こしてもおかしくなかった。

 言葉は悪いが、危険因子がなくなったことに。


「あら、あまり動揺していないようね。どうして?」

「別にそんなことはない。ただ、あいつが探索していたであろう、リキルの残骸を目の当たりにしたら、いずれはこうなる可能性もないとは思えなかったからな」


 懸念が胸に広がるなか、リキルの町で遭遇した三人の姿が脳裏に巡った。

 そのなかの一人、啖呵を切っていた男の子のことが強く甦った。

 まさか、彼が?

 一瞬、そんな不安がよぎるけど、すぐに掻き消した。

 そんなことはない。

 そう信じたい。

 出番がなかったからか?

   うん。それはしばらく続きそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ