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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  二 ーー 待つだけ ーー

 九十二話目だけど、またなの、これ?

 毎回これあるんだ……。


 過多な知識は無用の産物と言うわけではないが、知識があったからこそ、後悔を招くことになったのかもしれない。

 姉妹がこの街を出て行き、本や書類に埋もれ、あの二人がいなくなった部屋に座り込んでいると考えてしまう。

 あの二人を感化させるべきではなかったのかもしれない、と。



 姉妹が興味を持ったのは、一冊の本。

 何気ない冒険譚であったけれど、それが空想ではなく、史実を元にしていることを言ってしまったのが問題であったのだろう。


 きっと姉妹も大半は物語を理解していただろう。

 それから二人の眼差しは変わり、旅立つ日に向かって時をすごしているのは肌で感じていた。


 止めるべきだったのか……。


 その答えは今でもわからない。

 けれど、当時は引き留めることはせず、小さな二人の背中を見送ることにした。


 それは正しかったのか?


 どうだろう。

 数年経っていても、当時の私へは明確なことを言えない。

 ただ、ずっと考えていたことはある。


 二人が帰ってきたとき、私はどうするべきかを。

 長い旅であり、納得のいかないことも多いだろう。

 きっとリナは憤慨しているだろう。

 その際、気の済むまでその愚痴を聞いてやろうと決めていた。

 いずれ、二人は晴れ晴れしく帰ってくると信じていた。

 しかし、二人の帰りは私の思っている形にはならなかった。


 二人が別々に帰ってきたことには驚きでしかない。



 もう二人は子供ではない。「何があったんだ?」と無粋なことを聞くつもりはない。

 それでも心配になってしまう。


 特にアネモネの変貌には目を疑ってしまった。

 それでも、彼女の目の奥に潜む強い想いは昔と変わっていない。

 きっと彼女なりに何か決意するものがあったのだろう。



 リナもそうである。

 アネモネが一人で帰り、その変貌から、その心を心配してしまった。

 いつも強がり、気丈に振る舞っていても、リナの心は繊細で脆いことを知っていたから。

 でも、彼女のそばに見知らぬ二人を見て安堵した。

 きっと旅の途中で出会ったのだろう。

 話を聞いていると、お世辞にも頼りがいのある人物には見えなかった。

 だが、その頼りなさが逆にリナの気持ちを落ち着かせ、安心させているのかもしれない。

 だからこそ、いつものように私に暴言を吐くほどに気が許せていたのだろう。



 二人が別の道に歩み出したことに口を挟むことはない。

 私は信じている。

 二人は大丈夫だと。



 だから、私はここで待っていることにしよう。

 二人が帰ってきて、アネモネが子供みたいに笑い、リナが眉を吊り上げ、部屋の汚さを嘆くのを楽しみにして。

 きっと大丈夫。

 だから。


「部屋でも掃除しておくか」

 ま、僕らの休憩と捉えておこう。

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