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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  第二章  9 ーー 地図 ーー

 八十九話目。

 話をずっと聞いていると、なんか疲れる。

            8



「ーーで、旅を続けるにしても、行く当てはあるのかい?」

「明確な場所は……」

「でも、タレスって町に行こうとは思っているの」

「タレス?」

「うん。前にね、ある商人に教えてもらったの。その町の付近に、忘街傷があるって聞いたから」


 アカマから聞いたことを伝えると、先生の表情は曇り、考え込むように顎を擦る。


「何かあるんですか?」

「いや、タレスって町が問題じゃないんだけどな。あの辺りには不穏な話があってね」

「不穏なこと?」


 聞くと、どこか先生の眼差しはリナを睨んでいるみたいに鋭かった。


「あの辺りでは特に多いんだよ。あの集団が見られることが。だから気をつけた方がいいと思ってね」

「まぁ、あいつらにしてみれば、私は盗賊だからね」


 リナは笑いながら三つ編みを擦ると、


「でも、諦めるわけにはいかないから行くけどね」

「だと思ったよ。ま、気をつけろってことだよ」


 先生の忠告は痛いほど伝わってくる。本当にリナを心配しているのだろう。

 ふと疑念が意識を止める。

 いつも、何かを決めようとすると、エリカが変なことを言い出していたのだけれど、今日はなぜか静かだった。


 なんか奇妙だ。


胸騒ぎに苛まれ、エリカを見ると、エリカは途方もない方をじっと眺めていた。


「何やってるんだ、エリカ」


 気持ちをどこかに忘れているエリカに聞くと、エリカはおもむろに手を上げ、指差した。


 壁に貼られていた地図を。


「ーーあれ、なんか変」

「変って、何が?」


 壁に貼られた地図は別にどこも変わったところはない。年季が入っているせいか、焼けてところどころが破れているぐらいで。

 リナと意味がわからず顔を見合わせていると、おもむろに席を立ち、地図のそばに寄った。

 エリカは地図を指でなぞり出す。


「トゥルスにグトル。それにシャウザ? こんな町の名前、聞いたことがない」

「なんだ、その名前?」


 聞き慣れない名前につい席を立ち、慌ただしくエリカのそばに駆け寄った。

 改めて地図を眺めてみた。

 ところどころが破れていても、大陸に違いはなかった。


「……本当だ」


 年季のせいか、字が擦れて薄くなっている部分もあるけれど、読める部分を眺めていると、町の名前らしき書き方がしてある。

 でも、エリカの指摘通り、聞き覚えのない文字が並んでいる。


「これって、合ってるんですか?」


 思わず聞いてしまう。


「おそらくね。かなり前のやつみたいだし、なんでそんな名前が記載されているのかはわからないんだけどね」

「あれって、私らがいたときにはなかったよね」

「そうだな。リナらが街を出てから見つけたやつだからな」


 地図を眺める先生に、リナも頷く。


「どこで手に入れたの?」

「どうだっただろうな。いろいろと手に入れているから、忘れたな」


 おどける先生は大声でだらしなく笑うと、リナは呆れてうなだれた。


「だから、掃除ぐらいしなって。本当に大事な物までなくしてしまうわよ」


 首筋を掻きながら忠告するリナに、先生に効果はなく顎を擦った。

 明るいやり取りを聞きながら、もう一度地図を眺めていると、ふと目が止まる。


「ーーあれ?」


 眉間にシワを寄せ、つい指でなぞってしまう。


「この場所…… それにここって……」

「……気づいた?」


 疑いの視線を彷徨わせた後、隣のエリカに止まる。

 エリカは意味深に頷いた。


「ーーどうかしたの?」


 僕の異変に気づいたリナが首を伸ばす。


「これ、名前はわかんないけど、これまで行ったことのある忘街傷の場所と重なってる気がするんだ。それに、これから行こうとしてる辺りにも「ナルス」って名前が書いてある。本来の町の名前は書いてないけどさ。タレスだっけ」

「……嘘でしょ」


 信じられないリナも席を立ち、こちらに来ると地図を見入った。


「ほんとだ。この辺りタレス……  どういうこと? これって忘街傷を記してあるの?」


 振り返って先生に聞くリナ。期待からか声を上擦らせて。


「さぁ、どうだろうな。わざわざ忘街傷を書き残す必要もないから、別に理由があるのかもしれないし、本当にそこに書かれている名前がすべてそうだという保証もないけれどね」


 さっきのおどけた態度はどこかに消え、腕を組み直して真剣に先生は答えた。

 確かに信憑性があるかは曖昧だろう。けれど、


「行ってみる?」

「ーーそうだな。元々、この場所に行くつもりでいたから、それに近くにタレスって町があるなら、そこでまた新たな情報が手に入るかもしれないし」

「ーーだね」

「タレスに行くのか?」

「うん。そうする」


 リナは答えると、先生はまた難しい顔でリナを見た。


「さっきも言ったけれど、その辺りは危険が多い。リナ、お前は特に気をつけるんだぞ。どうせ、行くだろうからな」

「当然じゃん」


 先生は幾分、真剣な口調で忠告するけれど、リナは軽くあしらい、手を振る。

 本当に父親が娘を心配しているように微笑ましかった。


 笑うとまた怒られそうなので、必至に堪えた。

 単純で助かる気はするよ。ある意味、お前の性格って……。

 でも、なんか鋭いな……。

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