第二部 第二章 8 ーー アネモネの道 ーー
八十八話目。
なんか、昔のこと聞いてると嫌になりそう……。
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「そもそも、なんで戦争は起きたんですか?」
根本的な問題が解決していない。
胃の辺りにしこりとして残る疑問を直接投げた。
しかし、先生は目を瞑ってしまう。
「それだけはまだはっきりと言えないんだよね。戦争があった、その遺恨が根深く残り、世界を歪ませているのだとわかっても、原因とされるものは何一つ残されていないんだ。その部分だけ消されているみたいにね」
話は戦争についてに傾いていた。
「……もしかすれば、それにワタリドリやアイナが関係しているってことなのかな」
「どうだろうな。そのものを調べることが難しくて、僕も困っているからね」
先生は頭を掻き、途方もなく天井を眺めた。
打ち止め感がどうしても否めない。
この気持ち悪さを拭うにはどうするべきか。
途方に暮れていると、奥から物音がした。
しばらくしてリナが姿を現した。
「お、用事は済んだか?」
頭を手で押さえながら先生が聞くと、リナは目を細め、
「ダメだった」
と笑ってみせると、イスに座った。
「ーー会えたの?」
向かい合ったエリカが小さく聞く。
誰に? とは言わなくてもわかっていた。
「うん。会えた。けどダメだった。一緒には行けないだって」
顔を上げ、明るく言うリナ。それに僕らは何も言い返せない。
詳しくは聞けない。
聞けなかった。
気丈に話しているけれど、無理をしているのは明白だったので。
メガネをかけることで、本心を隠しているようにさえ見えてしまう。
「アネモネはアイナの道を行くってことか」
感心するように呟く先生に、力なくリナは頷き、顔を伏せた。
「それでいいの?」
聞いたのはエリカ。
リナの肩がピクッと動く。
見るからにリナは憔悴している。雰囲気はも暗く、心もとなかった。
「放っておいていいの?」
強い衝撃を与えれば、倒れてしまいそうなリナに、エリカは容赦なく突く。
「離れていくのを黙って見ているだけ?」
どこか責めている言葉にスッとリナは顔を上げ、エリカを睨む。
エリカも臆することなく眼光をぶつける。
しばらく無言のまま睨み合いが続いた。互いに引こうとしない。
そばにいた先生の方が怖じけて身を反らしている。
エリカの強情さは僕が一番知っている。
ここも譲らないだろうし、別に悪いことを言っているとは思えない。
だから、リナがどんな反応をするのかを待っていた。
手を上げるような、そんな最悪の事態にはならないだろうと、見守っていると、根負けしたのか、リナは息を吐く。
「ーー当然でしょ」
リナは力強く言い放った。
「あの子が何を考えているのかはわかんない。でも、冷たくされたからって、逃げ出すようなことは私だってしない。私は私の目的を諦めない。アンクルスを探し出す。絶対にっ」
それはエリカに向かって、言い放っただけではないと思えた。
きっと、リナとアネモネの間で何かがあったのだろう。だからこそ、リナはアネモネにも言い聞かすべく、強く決意したんだろう。
しかし……。
エリカには感心させられ、声を呑み込んだ。こいつは人見知りなくせに、たまに核心を突くことを悠然と放つ。
どれだけ肝が据わっているのか。まったく。
「……アンクルス。懐かしい響きだな。僕も一時期探そうとしていたけれど、まだ諦めていなかったとは」
「何言ってるの。私らを感化させたのは先生よ。アンクルスって町があるって」
安堵した。
塞ぎ込んでいたリナに明るさが戻り、先生と話す姿に。
「でも、いいのかい。君たちの旅の目的は違ってくるんじゃ。確か、捜している人がいるって」
思い出したように、先生は僕らを気にかけたが、僕はかぶりを振る。
「アネモネはワタリドリとも関わりを持っている感じだったので、無関係じゃないと思うんです」
「ワタリドリを捜してテンペストを追う。本当に感心しかないね。リナもそうだけど、途方もない旅になるよ、お互い」
「ーーはい」
自然と三人の声が重なった。
昔のことって、僕らには関係あるのか…… 微妙だからね。




