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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  第二章  2 ーー カストという街  (2) ーー

 八十二話目。

 先生?

  なんか、会うのって……。


 赤レンガを積み上げられ建てられた二階建ての家。

 角度の鋭い屋根が特徴的に見えた。

 見上げてみると、二階にはふたつの窓があるのだけれど、どちらも閉ざされている。


「こっちよ」


 と、慣れた様子でリナは扉を開いた。

 まるで自分の家に入り込むような自然さに戸惑ってしまう。


「って、ノックとかいいのかよ」

「あぁ~。多分、したって聞こえないと思うから大丈夫。昔から防犯意識のない人だったから。ここだってそうでしょ。鍵もかけていないし。泥棒に気をつけろって注意したって気にしてない。ほんとに無防備な人なのよ」


 それまで、どこか気が張っていたリナであったけれど、先生のことを話していると、表情は砕けた。

 懐かしさが安心させたのかもしれない。

 どこか子供っぽい様子に、ホッと安堵した。


「先生っ、いるんでしょっ」


 後を追って建物へ入っていくけれど、すぐに鼻を押さえてしまう。


「ーー臭いっ」


 エリカが容赦なく文句をもらす。

 入り口を開けると、廊下が奥へと伸びていたのだけれど、その両脇には大量の荷物が積み重なっていた。

 大きな箱には何冊もの本や書類が目一杯詰められている。

 さらには、収まり切らない本などが、廊下に直に何冊も積み重ねられて進路を塞ぐ障害となっていた。

 なかには天井近くまで荷物は重ねられ、バランスが崩れてしまい、床に散らばっている本などもあった。

 家に入った瞬間に鼻を突いたのは、これらの紙の匂いで、掃除もままならないのか、ホコリが積もっている。

 鼻を突くのはそれらの匂いなんだろう。


「先生っ、どこっ」


 荷物の多さに圧倒され、エリカと壁を這うように進むのをよそに、リナはズカズカと容赦なく奥へと進んでいく。

 辺りにある荷物がどれだけ貴重な物なのかわからないなか、リナは当たり前みたいに本などを踏み荒らしていく姿に言葉を失う。


「ったく、もうっ。いつになったら掃除すんのよ、まったく」


 ようやくリナのそばに辿り着くと、一つの部屋が広がる。

 しかし、部屋の様子には眉をひそめてしまう。

 部屋にはテーブル。

 左側には一面に本棚があるのは見て取れた。

 まだ廊下に比べればマシではあるけれど、ほとんど足の踏み場がない。

 こちらにも本と書類が散らかっていた。

 本棚にもギッシリと本が詰められ、もう入る隙間もなく、テーブルにも何冊も置かれていた。

 一言で言って、汚い。


「まったく。いつになれば成長するのよ、あのジジィ」


 と、うなじの辺りを忙しなく掻くリナ。

 嘆きながらかぶりを振り、床に落ちている本を容赦なく踏んで部屋を周り込み、壁際にあった大きな窓を開いた。

 遮断されていた部屋に陽射しが射し込み、部屋が明るくなる。

 しかし、風が入ることでほこりが舞って咳き込んでしまった。


「また本に埋もれて寝てるのね。ったく、ごめんね、汚くて」


 エリカは匂いが相当嫌なのか、両手で顔を覆って鼻を隠している。

 リナはその姿に苦笑しながら、床に落ちた本を雑に隅へ寄せ、通路を広げた。


「もうっ、先生っ、早く起きてっ」


 積んだ本を叩きながら、リナは天井を眺め大声を上げた。

 鼓膜を破りそうなほどの大声に、エリカの二人で咄嗟に耳を塞いだ。

 驚く僕らをよそに憤慨するリナ。

 乱暴に本を片づけるなか、唐突に天井からドンッと鈍い音がした。


「やっと起きたな」


 音につられて天井を眺めていると、リナが不敵に口角を上げた。

 しばらくしてからである。

 ギシギシと木が軋む音の後に、誰かが階段を降りてくる音がした。

 誰だろう、と手を止めて顔を上げると、またドサッと鈍い音がした。

 肩をビクッとさせると、部屋の入り口付近で、一人が無様にうつ伏せに倒れていた。


「ーー誰?」


 助けを請うように手を伸ばしていた。

 唖然とするなか、エリカの人見知りが発動してしまい、僕の背中に隠れた。


「……先生。冗談は止めて早く立って」


 蔑んだリナの声に、微かに震えていた手が止まり、


「……その声はリナか? なんだ、久しぶりに来たと思えば、懐かしむ声もないのか」


 と、低い声で唸りながら、ゆっくりと体を起こした。


「お前が本を片づけたから、私は倒れたんだぞ」

 文句をこぼしながら立ち上がったのは男。ため息をこぼし、体のほこりを払う男と目が合った。

 初めて見る僕らに驚いたのか、男は青い目をキョトンとさせていた。


「もう、いい歳なんだから、しっかりしてよ。先生」


 リナは悠然と立つ男に、頭を抱えて嘆いていた。


 この人が先生?

 まぁ、そう警戒するなって。

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