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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  第二章  1 ーー カストという街 ーー

 八十一話目。

 今さらだけど、私って、なんか子供扱いされてる気がする。

           第二部



           第二章



            1



「ごちそうさま」


 さて、これで機嫌は治ってくれたか。

 街の酒屋で満足げにエリカはイスに凭れ、目を細めて腹を両手で擦っていた。

 よくもまぁ、それだけ腹に収められるものだ。

 三十分ほど前はテーブルの上に山盛りになっていたのが空っぽになっているのだから。

 店員が山盛り料理をエリカの前に置いてと頼むと、何度も驚愕して目を剥いていた。

 さて、その店員が今の状況を見たら、またどんな顔をするだろうか。


「ほんと、何回見ても驚きしかないわね」


 向かいに座っていたリナが驚嘆の声をこぼした。

 この状況も何度目なるだろうか。もう慣れてしまったな。

 


 カストという街。

 先生のいる町は思っていた以上に栄えた、街であった。

 まずは宿を探して雨に汚れた体をさっぱりとした。

 数日ぶりのシャワーは、本当に干からびた与えてくれる恵みであり、生き返った気分になった。

 その後、酒屋に寄り、今に至る。

 当然ながら、料理が並べられるまで、エリカは不機嫌極まりなかったけれど。


「でも、思っていたより、栄えているんだな」

「まぁ、この辺りは流通の要だからね。この街は。だから人の流れは多いわね。商人も多いわよ」


 どこか、気分が高ぶってしまう。我ながら田舎者だな、と嘲笑してしまう。

 平静をできるだけ保たなければ…… 恥ずかしいぞ、これは。

 街のにぎわいはデネブとも遜色ない。いや、それ以上なのかもしれない。


「リナってこの街に住んでいたんだろ? だったら、知り合いとから多いんじゃないの?」

「どうだろ。私らも昔はあまり人との関わりを拒んでいた時期もあったから、そうでもないかもね」


 何気ないことを聞いたつもりでいた。けれども、リナはどこか素っ気ない態度で避けていく。

 イスに凭れ、コーヒーを一口飲み、店内を眺めた。

 それこそ、客はテンペストなどの不安なんて無関係だ、と言いたげに酒を楽しんで盛り上がっている。

 それでも、リナの様子はどこか寂しげであった。



 エリカの機嫌も治まり、先生と呼ばれる人物の家へと向かうことにした。

 綺麗に舗装された石畳の道を歩いていると、これまで山や草原と自然道を歩いていたときより、足の軽さが奇妙でもあった。

 リナは慣れた様子で先を進み、後ろからエリカとともにオドオドしながら追った。

 道の両脇にも露店が並んで賑わっている。

 すれ違う人もどこか華やかに見えてくる。

 それでも、背中には微かな違和感を拭えずにいた。


「祭壇がないな……」


 ポツリと呟くと、エリカが静かに頷く。

 これだけ賑やかであるならば、祭りが盛大に行われるのも容易に想像がつく。

 それなのに、祭壇らしき設備が見当たらなかった。 

「この街に祭りはないのか?」

「あるわよ。祭りはね。でもこの辺りは装飾を模った数人が列を成して練り歩くのが恒例なのよ。あっちに大通りがあったでしょ。あの辺りをね」


 前を歩くリナに聞いてみると、答えながら建物の隙間から見える大通りを指差した。


「祭りって言っても、いろいろなんだな」


 少し羨ましかった。

 生け贄を使わない祭りが行われていることに。


「ーー着いたわ。ここよ」


 街の光景に圧倒され、感心していると、リナは足を止める。

 う~ん。どうだろ?

 でも、お前の機嫌を取るのは、簡単な気がする。

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