第二部 第一章 13 ーー テンペストじゃない? (3) ーー
七十九話目。
二人して何をやってるの?
意味わかんない。
「……キョウ?」
微かに聞こえたのはエリカの声。
小さな灯火を追うように、目蓋を開いていく。
一筋の光が水平線みたく視界を開かせていくなか、目の前に誰かが立っていた。
「ーーキョウ?」
視線が捉えたのは、雨で髪を濡らすエリカ。
今までどこに行っていたんだ、と聞く気すら失せてしまう。
何せ、エリカは何事もなかったように唖然としていた。
いや、どこか怯える僕を嘲笑っているように、口角を上げている。
こっちの心配をわかっているのか?
「何してんの?」
無邪気に聞こえるエリカの声が、より混乱を誘ってしまう。
あの女の子はなんだったんだ?
あの集団は?
あの光景はなんだったのか……。
あたかも争いの最中の様子であった。
あれって……。
「あの連中、なんだったの?」
途切れてしまいそうな危うい声が風を切る。
リナの声が。
隣で疲労困憊の様子で、髪を撫でるリナ。
肩を大きく揺らしている姿は、必死になって全力疾走したあとみたいだ。
唖然としていると、リナは僕の顔を怯えながら眺めている。
「ねぇ、あれってなんだったの?」
まっすぐな眼差しが訴えているのがなんなのか、瞬時に理解した。
リナもきっとあの光景を見たんだ、と。
それでも確かめることはできなかった。
怖かったから。
僕は唇を強く噛み、力なくかぶりを振るしかなかった。
結局、テンペストと思えし被害を受けることはなかった。
あの空間すべてを奪ってしまう無慈悲な光景が広がることはなく、ひとまず安堵した。
あの女の子が誰であったとかを、知ることもない。
雨に濡れながら、しばらく廃墟を巡ったけれど、女の子に繋がる痕跡すらない。
そもそも、一瞬垣間見た町がこの廃墟だったのかもわからない。
半ば諦め、先生と呼ばれる人の町に急ぐことにした。
あの瞬間はなんだったよか、と。
廃墟が遠退くにつれ、天候は回復していく。
いつしか青空が広がっている。
本当に奇妙な黒雲であったと悩まされた。
ただ一つの問題も残されてしまうから、本当に厄介である。
エリカだ。
あの光景を知らないエリカは、僕らの話を信用せず、疑っている。
唇を尖らせ、「嘘をつくな」と一方的に叱責し、子供みたいに膨れ、手がつけられなくなっていた。
解決方法は一つしかない。
きっと空腹だから、すぐに気が立っているのだ。
満腹になれば気持ちも落ち着くだろう。
早く飲食店を探さなければ。
まったく……。
人の苦労もわからないで……。




