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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  第一章  1 ーー 叱咤 ーー

 六十七話目。

 第二部開始なんだよね……。

 それなのにまた私が出てない……。

 なんで?

          第二部 

  

          第一章



           1



 一度迷路に入り込み、一つ道を間違えてしまえば、最初の場所に戻ることすら難しいのかもしれない。

 リナの体調もかなり回復してきたのだけど、デネブの町をすぐに出発することはなかった。

 理由はリナの体調を考えてのこと。


 でも、当の本人は……。


「あんたたち、何考えてるのっ?」


 酒屋のテーブル。

 向かい合うリナの鋭い眼光と怒号が肌を刺すみたいに体を硬直させた。


「仕方がないだろ。これから向かう場所の当てがないんだし」


 コーヒーを一口飲むと、リナを宥めた。

 実際、行く当てがないのは事実である。

 無謀に飛び出したって、ただ彷徨うだけになりそうなので。


 アネモネを追う?

 テンペストを探す?


 どちらもが見当がつかないんだから。


「あのね。別にそんなことで私は怒っているんじゃないの」


 イスに凭れ、腕を組みながら憤慨するリナ。

 何が不満なのかわからなくなり、うなだれてしまう。


「私が怒っているのは、何にお金を使ってるのって話なのよ」


 肩にのしかかっていた緊張が刹那、どこかに去り、安堵する暇もなく疑問が押し寄せていた。


「別に変な物って買ってないじゃん。ただーー」

「ーー怪しい薬?」

「そう、それっ」


 叱咤に途方に暮れていると、隣で昼食を食べていたエリカがポツリと呟いた。

 するとリナが強く頷いた。

 訳もわからずエリカを見るけれど、エリカはどこ吹く風と、肉の塊を口に運んでいる。

 あぁ、ため息が出そうだ。

 相変わらずエリカの前には、山盛りの料理が並べられている。

 ったく、毎回僕の食事の何倍はあるんだ? 見ている方が胃もたれが起きそうで嫌になる。

 きっと五人前はあったけれど、それが三十分もない間に胃に消えていくのだから、圧倒されてしまう。

 本当に食欲が失せそうだ。


「薬って、何怪しい薬を買っているのって言っているの。あの薬の値段聞いて、信じられないわよ、ほんとにっ」

「薬って、あぁ、あれね。別にいいじゃん。その薬のおかげで回復が早くなったんだから」


 聞き流そうとすると、リナは頭を抱えてしまう。

 本当にリナはケガをしていたのか、と疑いたくなるほど、憤慨しているけれど、それには理由があった。



 リナが目を覚ます三日ほど前である。

 その日まではアネモネに刺されていた傷は完治していない。

 おそらく普通に療養しているならば、まだ数日はベッドに眠っているはずである。

 しかし今、目の前のリナは鬼みたいな形相でいる。

 それにはやはり理由がある。


「商人がたまたまいたから。それで買っただけ」


 そこでエリカが平然と言い、今度は野菜スティックを口に運ぶ。

 詫びる素振りはまったくなく。


「だから、それが問題なのよ。なんでそんな商人から簡単に買っちゃうのよ。ちょっとは怪しみなさいよ」

「仕方がないだろ。エリカが簡単に買っちゃったんだからさ」


 フォークの動きを止めないエリカを眺め、ぼやくけれど、リナは険しさを崩さない。


「あんたたち、どれだけ平気でいられるのよ。あとから値段を聞いて驚いたわよ。それにこれ……」


 冷めた目で睨まれ、すでに減った料理を眺め、ため息がこぼれた。

 つい大げさにかぶりを振ってしまう。


「……あんたたちの金銭感覚を疑いたくなるわよ」


 毎日かさむエリカの食費。

 こいつに胃袋の限界はない。指摘されるとそれだけは反論できない。

 下唇を噛んでしまう。


「……こんなんじゃ、いくら節約したって、安宿にしか泊まれそうにないわね」

「まぁ、それだけ早く町を出られるんだったら、それでいいんじゃないの」

「……どれだけお気楽なんだか…… でも……」

「……でも?」


 そこでリナは拳を顔の前で握っては開いてを繰り返している。

 どうも、乱暴なことをしそうである。

 不安から眉間にシワが寄りそうだ。


「なんか、商人を問い詰めそうなんだけど?」


 エリカが厄介なことを言い出すと、「その通り」と言いたげに、リナは口角をゆっくりと吊り上げ、不気味な笑みを浮かべた。


 まったく危ういものだ。


 なんか本気で言っているようで、背中に悪寒が走ってしまう。

 こいつは確か怪力だったよな。あれだけの大剣を軽々しく振り回していたのだから。


「大体、商人ってのはね、こっちの足元を見て値段を決めてくんのよ。こっちだってちゃんと構えないと。今度からは交渉は私がするわ。いいわねっ」


 よく言うよ。


 反論の余地もなさそうに拳をこちらに向けているのに。

 ここは逆らわずに従っておくべきか。

 このまま上手く受け流しておこうとすると、食べることに夢中になっていたエリカが不意に顔を上げ、リナを見据えた。

 頼むから余計なことを言わないでくれよ。

 と、変な念を送っていると、エリカはすぐさま顔を下げてしまう。

 急に怖い物を見て怯えるみたいに。

 ……いや、こんなときは大概……。


「あれ? 君たち、もう連れの子は回復したのかい?」

 話の順序ってのがあるの。

 いいだろ、今回出てきたんだから。

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