第二部 序 ーー 私は…… ーー
六十六話目なんだけど、第二部?
それって新しくなるってこと?
第二部
序
いつもそうであった。
足元が覚束ない白い空間を歩いているような、そんな奇妙な感覚に襲われる。
どこに行けばいいのか迷い、その場に立ち止まるしかできない。
そんな夢に苦しめられていた。
声を上げるにも、喉が痛むばかりで声が出なかった。
自分の声を阻むように、耳を締めつけるものがあった。
ウォォッ ウォッ ウォッ
オォォッ オォッ オォッ
聞こえてくる獣の咆哮らしき叫びが胸をざわめかせ、苦しめられていく。
リナ…… どこにいるの?
リナ…… ねぇ?
リナ……。
何度も声を上げようとし、助けを求めていたとき、目の前に人影の輪郭が浮かび上がる。
リナが助けてくれた。
安堵した瞬間、人影がリナでないに気づき、夢が覚める。
いつもこうして現実に引き戻されていた。
奇妙な感覚の夢であり、安堵しつつも、現れた人影が誰であるのか疑問だけが体に鎮座していた。
テネフ山で現れた光に包まれた瞬間、それは夢で見ていた感覚に似ていた。
そしてそこに、一人の人影が目の前にいた。
白い空間のなかで微笑んだ女の子の姿に、これまで夢で見ていた人影が、その女の子であるのを、不思議と直感してしまった。
白い空間には私とその女の子しかいなかった。
女の子は微笑んでいた。
「……あなたは誰?」
柔らかな声に私は答えることができない。
私はアネモネ……。
私はアネ…… モ……。
私は…… ア……。
なぜだろう。
記憶が水に薄れていくみたいに、消えそうになる。
それなのに怖くない。
不思議とその子に近づいてしまう。
微笑んだままの女の子のそばに寄ると、そのまま女の子の頬に手を添えた。
怯えることなく、女の子は自らの小さな手を私の手に重ねる。
手は暖かく、心を落ち着かせてくれる。
温もりはどこかリナの安心感に似ていた。
いや、そうじゃない。
この落ち着きは…… 私……。
奇妙な安心感は、薄れゆく記憶を歪ませていく。
でも、気持ち悪さはない。
記憶が歪むなか、女の子のまっすぐな眼差しが私を捉える。
記憶が薄れていくんじゃない。
記憶が流れ込んでいた。
私の記憶じゃない、誰かの記憶。
女の子の頬がさらに緩んだ。
……そうか。そうなんだよね。
そうだよね。私がしなければいけないこと……。
「……私は…… 私の望みは……」
刹那、白い光から開放された。
目の前にはリナがいる。
黒マントと何か口論している。
リナ、違うよ。違うんだよ……。
私はもう……。
あなたは誰?
女の子の問いかけが脳裏に蘇る。
私は…… あなた……。
私はアイナ……。
まぁ、そうなるよね。
だって、まだ旅は終わってないからね。
ということで、新たな旅となります。
もしよろしければ、ブックマーク登録、評価もよろしくお願いします。
新たな旅の励みとなりますので。