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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第六章  2 ーー 疑問 ーー

 五十九話目。

 問題は多いってことなのよね……。

           2



 頬杖を突きながら、テーブルと睨み合っていた。

 いろいろと起きすぎたことを整理したい。それなのに、どうしても集中することができなかった。

 肉の焼けた香ばしい匂いが鼻孔を刺激してしまって。

 テーブルの向かいで、山盛りとなった料理に食らいつくエリカ。

 僕の心配をよそに、平然と肉を口に運んでいた。


「お前なぁ。これからどうするか考えているときに、よく食えるな」


 皮肉を込めてぼやいてみるけど、エリカには通用せず、満足げに目を細めるだけである。


「臆病者に、何も言われたくない」


 手を休めたエリカが乱暴に吐き捨てる。


 ……はいはい。


 何も言い返せない。



 あの湖での騒動から、十日が経とうとしていた。



 結局、僕はあのとき、無様に立ち竦むことしかなかった。

 アネモネが黒マントと姿を消した後、すぐにリナは気を失ってしまった。

 動揺と焦りが平常心を奪うなか、エリカが毅然とした態度で僕に指示をしてくれていた。

 そして、デネブの町に帰り、医者に診てもらうことになった。

 突然のことで医者も混乱していたけれど、命に別状はなく、リナは一命を取り留めた。

 それでもまだ目は覚ましていない。

 傷の深さもあるけれど、精神的な痛みが大きいのだろう。

 最近は落ち着いたけれど、事件があって三日ほどは、夜通しうなされていた。



 問題は山積みである。


 

 姉妹の行動。

 幻だったはずの少女。

 黒マント。

 そしてアネモネ。

 


 僕の知らないことが次々に起こってしまい、頭がパンク寸前である。

 それらを手帳に箇条書きにしているのだけれど、話がまとまってくれず、お手上げ状態なのである。


「多分、あそこで見たことって、何かの形で、私たちの目的と関わりがあるのかもしれない。あの変な女の子にしても、アネモネにしても」

「……だよな」


 エリカの指摘に頷き、手帳に示した言葉を眺めた。


 大剣 → 鍵

 少女 → アイナ → 名前? → アネモネ?

 アンクルス → 町の名前 → リナたちの故郷?

 セリン・黒マント → ミサゴ → 名前? → 仲間?

 セリン → “ワタリドリ” → ?


 ダメだ。

 やはり上手くまとまってくれない。

 手帳に書いた言葉が“?”を背負って踊り出しそうである。


「……結局、わかったのって、あの人が“セリン”って名前で、あの黒マントと仲間かもしれないってことだけだよね」

「まぁな。それで、そいつら、自分たちのことを“ワタリドリ”って言っていたよな。そしたら、何が目的なんだ?」

「女神の願いを叶えること」

「女神って、あの女の子? アネモネは確か“アイナ”って呼んでいたけど」

「それでアネモネは“アイナ”の生まれ変わり」


 ダメだ。堂々巡りになってしまう。

 頭を抱えずにはいられない。


「悩むことは前進って、言っていたよな」


 先が見通せないなか、ふと少女の言葉がよぎった。

「それセリンって人のことも、テンペストのことも、みんな知ってるって。じゃぁーー」

「でも待って。それはわかるけれど、アネモネの言葉を信じるなら、あの女の子はもう……」


 ちょっと興奮して声を上擦らせる僕を、エリカは諭す。

 エリカの言いたいことに気づき、唇を噛んだ。

 また行き詰まってしまう。


「今、探さなきゃいけないなかで、一番情報があるとすれば、これだと思う」


 と、空気が重くなりそうななか、エリカは手にフォークを持ちながら、手帳に書かれていた項目の一つを指差した。


「ーーアンクルス?」

「そう。覚えていない? あの二人はこの町に行くために大剣を使うって言っていたし、黒マントもこの町のことを知っていた。それにあの女の子も。みんな、この町に繋がっている気がする。セリンって人も、黒マントの仲間だったら必ずここに何かあると思う」


 感心してしまう。


 目まぐるしく流れた湖での出来事は、僕にとってはうろ覚えの部分もあるのに、エリカはしっかりと状況を掴んでいる様子だった。

 ふざけることなく、僕を真剣な目で見据えて助言してくる。

 しかし、問題もある。


 リナである。


 事情を話して情報を聞くにしても、彼女はまだ眠っている。

 喉から手が出るほど急ぎたいけれど、今は我慢するしかない。


「ーー驚いた。本当に大食いなんだ」


 途方に暮れるなか、驚愕の声が聞こえた。

 声を追って視線を横に移すと、テーブルの横に、目を丸く見開いていたリナが立っていた。

 次の目的は決まり、でいいのか……。

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