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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 五  ーー 風に思う ーー

 五十七話目。

 また私の出番が……。

 なんか最近、扱いが雑になってる気がする……。


 瞬間、羽音が破裂するように、けたたましく鳴った。

 青く澄んだ空に、木の枝で羽根を休めていた小鳥たちの影が泳ぐ。

 途方もない空に去っていく小鳥を眺め、息を呑んだ。

 大地が悲鳴を上げたのか、と疑いたくなるほど、足底から冷たさが伝わってくる。

 小さな訴えに気づいた者は一体、何人いたのだろうか。

 きっと誰も気づいていないだろう。

 悲しいことである。


「……“扉”が開かれたか……」



 本当に?

 誰がなんのために?



 思い当たる節が浮かばなかった。

 “鍵”の存在を知る者は、限られた者しかいない。

 なぜだか、嫌な気分がしてしまう。



 何かが変わる……。

 みんな忘れているのに……。

 その変化はまだ…… ない。



 小鳥が飛び去った空に静寂が戻る。

 何事もなかったように。


「これでよかったのですか……」


 弱々しい問いが空に舞ってしまう。

 自分の役目は“彼女”の願いを。

 それが成就させることは険しい山を登るよりも難しいこと。



 扉は開かれたらしい。

 扉を開いた者は“彼女”に会ったのだろうか。

 どうか、彼女の声に耳を傾けてほしい。

 その辛い想いに寄り添い、理解してほしい。

 それを今は願うしかなかった。

 自分が扉を開くわけにはいかないから。



 あのとき、彼女は笑った。

 辛そうな目を細めて。



 でも人は変わるだろうか。

 テンペストにおびえ、目を背ける人々に、変化を受け入れるだけの勇気があるのだろうか。

 いや、きっと扉が開かれることによって、否応なしにも、変化は訪れるだろう。

 そのとき、きっと揺れる。



 あなたを捜している人なのかもしれないんです。



 リキルで見た少年の言葉が蘇る。


「エルナで生き残ったあの二人。何を求めているんだ……」



 風の音が変わった。

 匂いが変わる。

 肺を握り締めるような、鼻を突く鋭い風。

 拒むように息を強く吐き捨てた。

 抗うように、身にまとった黒いマントをなびかせた。


「彼女は悪くない。テンペストは悪くない。早くそれに気づかないといけないんだ。そうだ」



 それが難しい……。

 今回で五章が終わりだからね。雑かどうかは別にして。

 では、第六章もよろしくお願いします。

 

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