表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/352

 第五章  5 ーー 見たもの ーー

 いつの間にか、五十話目。

 これって早いの?

            5



「なるほどね。あなたたちはあなたたちで、問題は山積みってことなのね」

「まぁ、そうなるね」


 セリンを捜し、テンペストを追っていることを伝えると、リナは労うように言う。


「じゃぁ、なんであの山に行こうとしたの?」

「……それは」


 当然な問いかけにふとエリカを見た。


「……それ…… テンペ……」


 今になって壁を発生させるエリカ。

 それまで普通に喋っていたので、突然の変貌に驚いた姉妹はキョトンとしていた。

 大丈夫、と手の平を見せて制し、


「ちょっとした勘でね。あの山にテンペストが起こりそうな感じがしたんだ。それで向かっていたところだったんだ」

「何それ? やけに楽観的な判断ね。そんなので見つかるの?」


 訝しげに首を傾げるリナ。まぁ、当然の反応である。


「まぁ、それが僕らのやり方って感じだしね」


 実際、九割はエリカの勘に任せているので、こう説明するしかない。


「ふ~ん。まぁ、人それぞれだし、いいんだけど。で、実際にテンペストに襲われたんだ。ねぇ、そのとき何があったの? これ、率直な疑問なんだけど」


 首を傾げるリナに、言葉を失ってしまう。

 上手く説明ができない。

 エリカもかぶりを振る。


「ごめん。上手く説明できないんだ。なんか、変な幻みたいなのは見たみたいだけど」


 あの湖で見た赤いドレスの少女のことが脳裏に浮かんだ。


「なんか、変な湖みたいなところで目が覚めたんだ」

「ーー湖?」

「ーーそう。そこがどこなのかはもちろんわからないけど、変な場所だった」

「どんな場所だったの?」

「よくわからなかったけど、その湖の縁に、変な石があって。なんだろ、そこに変な穴があったんだ。なんていうか、これぐらいの細い、大きい鍵穴みたいなのが」


 そこで指を広げ、穴のサイズを見せた。


「それに一番奇妙だったのが、そこで一人の女の子が現れたんだ。そうだな、なんか雰囲気はこいつに似ていたんだけど、赤いドレスの女の子が」


 ふとエリカに視線を移した。突然見られ、エリカは驚いて顔を背ける。

 何か言っていたんだけど、意味がわからなかった。

 曖昧になっている記憶を説明していると、姉妹は三つ編みを触ったり、首筋を擦ったりして、何か試案している様子だった。


「心当たりでもあるのか?」

「いいえ。期待に応えられるだけのことは持っていないわ。その赤いドレスの女ってのも検討がつかない。でも、興味はあるわね」


 リナの目に光が灯るのを見逃さなかった。


「ねぇ、それってあの山にあったんだよね。それってどの辺りかわかる?」

「いや。気がついたら、その場所にいたから。でも周りを見る限り、山のなかではあるだろうけど、なんで?」

「その鍵穴ってのがちょっと気になって。もしかしたら、私たちの探している物に関わりがあるかもしれないから」

「忘街傷に? でも、周りは深い山で町の様子はなかったけど」


 期待を口にするリナであるけど、水を差すことを言ってしまった。



「本当に体は大丈夫なの?」


 リナとアネモネが部屋を出て行き、ややあってから、エリカが心配そうに聞いてくる。

 ふと、腕を伸ばして体をほぐした。


「うん。体は楽になってきた」


 最後に腕を前にグッと伸ばした。


「でもよかったの? 私たちの旅の目的、話しちゃっても」

「まぁ、別に邪魔されるようなことは言われてないし、大丈夫だろ」


 不安から唇を噛むエリカの肩をポンッと叩き、不安をごまかしておいた。


「それに、悪い二人じゃなさそうだしな」


 エリカの腕を掴み、姉妹が立っていた扉付近を眺めた。


「ヤマトのこともあるから?」

「かもな」

「あの二人、もしかしたら、あの山に登るのかな」

「……可能性はあるな。なんか興味があるようだったから」


 姉妹が部屋を後にしようとする直前、意識はすでに山に傾いているのは感じていた。


 あまりいい気分ではなかった。


 テンペストに遭遇したのもあるけれど、やはりあの幻が強く恐怖を植えつけていた。

 今になって赤いドレスを着た少女の姿がくっきりと脳裏に浮かび、息を詰まらせた。

 それでも二人を止められなかった。

 ふと窓を眺めてしまう。


「なぁ、またテンペストは起きると思うか?」

「しばらくは大丈夫だと思う」


 あの黒雲が嘘みたいに晴れた空に、エリカの明るい声が溶けていった。

 助けてもらった恩義はあるけど、ちょっと気にはなるよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ