第五章 4 ーー 揺るがない ーー
四十九話目。
二人はちょっとムカつくけと、なぜか責められない……。
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意味がわからなかった。
黙ったまま頭を下げる姉妹にかける言葉が浮かばない。
混乱が頭を支配しているだけで。
「あなたたちのせいで、ヤマトは殺されたってこと?」
エリカの問いかけが空気を裂き、姉妹は恐る恐る顔を上げた。
そのままリナは窓を眺める。
「私たちはね、ある場所からある宝を盗んだの」
突然の告白に目を丸くした。
はい?
「その連中は、その宝を奪い返すために、私らを捜しているの。その連中、いろんな町を巡っていたんだと思う。なかには乱暴で単細胞のバカもいる。そいつらは立ち寄った町で強奪や乱暴を繰り返しているって話も聞いたことがある」
ちょっと待て。
「あいつらは町の人のことなんて……」
ちょっと待て。
「こんなことになるとーー」
「ちょっと待てっ」
ようやく声が出て、淡々と話を進めていたリナを遮断した。
話が呑み込めない。
リナを睨みつけた。
「大まかな事情なんて掴めない。簡単にまとめて話してくれ」
ゆっくりと話していたつもりでいた。けれど、思いのほか語尾に力が入ってしまい、どこか二人を責める態度になっていた。
リナとアネモネは下唇を噛み、責めを甘んじて受け入れている。
「この二人が宝を盗まなかったら、ヤマトは殺されなかった」
エリカが要約する。
それも珍しくエリカが二人をじっと睨み、言葉の節々に棘を生やして。
「ーーそっか……」
事態を呑み込むことはできた。
静かに怒りが込み上げてくる。両手をギュッと握り、二人を睨んだ。
姉妹は時折困惑していたけれど、憎しみを込めた眼差しをぶつけると、覚悟を決めたのか、姉妹も体勢を直して向かい合った。
「もちろん、責任は感じているわ。でも、私たちもだからって、あいつらに捕まるつもりはない。それを邪魔するって言うのなら、こっちも抵抗するから」
それは威嚇にも取れてしまう。
姉妹はそれまでよそよそしくしていたけど、今は違う。
無防備に立ちながらも、どこか隙がない。
敵意を醸し出しており、体が強張っていく。
ここで手を出せば、返り討ちになる。その禍々しさは伝わってくる。
「……別に君らを責めるつもりはない。それに、僕らにそんな資格もない」
迷いはまだある。
ヤマトの無念も晴らしたい。それを二人に敵意を向ける?
いや、何か違う気がしてしまう。
本当に敵意をむけるのはーー
「ヤマトを殺した奴は?」
「カサギという狡猾で、傲慢な無能な奴だった」
「そいつは今、どこに?」
「ーー殺した」
索漠とした返答に、目蓋を閉じるしかなかった。
驚きはある。
でも、気持ちがざわめくことがない。
もちろん、晴れることも。
行き場のない憤りが空気を濁らせていく。海の底に沈められたみたいに。
「そこまでして、あなたたちの目的は大事だってことなの?」
またしてもエリカは、密閉された空間に空気を吸い込ませた。
「それだけは譲れない」
「何を目的としているの?」
容赦ないまっすぐな問いは、姉妹の頬を強張らせる。
二人は互いに顔を見合わせ、無言で意見を交わしているようだ。
「あなたたち、“忘街傷”を知ってる?」
「忘街傷……。名前だけは。でも、実際に見たことはない」
僕の返事に、姉妹は揃って肩を落とした。それほどまでに重要なことなのだろうけど。
「私たちは、その忘街傷を探しているの。宝を盗んだのは、そこで必要なことだから」
「忘街傷に何があるの?」
「そこに求めることがあるかはわからない。私たちは自分たちの町を探しているの」
「ーー町?」
「そう。アンクルスという町よ」
地図とは何度も睨み合っていた。それなのに聞き慣れない町の名前に、眉をひそめた。
姉妹はそこで眉をひそめる。
「でしょうね。知らなくても当然よ。地図には載っていないから。みんな忘れてしまっているのよ」
「……忘れられた町?」
「言い当ててるわね。そうよ。忘街傷にはその町に繋がる可能性があるからなの」
どこか絵空事を掴むような話に聞こえてしまう。
それでも姉妹の目に曇りは一切なかった。まっすぐ輝く瞳に、決意が強いことは伝わってくる。
だからこそ、否定できない。
「ねぇ、私たちからも一つ聞いていい?」
「ーーん?」
「その、セリンって人を捜して何をしようとしているの?」
目的のため……。
わからなくはないけれど……。




