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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第五章  2 ーー ヤマトの伝言 ーー

 四十七話目。

   ……誰?

            2



「あなたがキョウで、あなたがエリカ?」


 メガネの子は小さく指で確認し、納得するように何度も頷いてみせた。

 ヤマトのことを知っている様子。彼の知り合いか?


「私はリナリア。この子はアネモネ。心配しないで。私らは敵じゃないわ」

「この子のことはリナって呼んであげたらいいわ」

「ちょっ、何勝手なこと言ってるのっ」


 二人で口論し始めるのを呆然と眺めてしまった。二人の様子からして、悪い人ではないようだけど。


「んで、冗談はここまでにして。私らは彼の言葉を伝えたくて、あなたたちを捜していたの。ほんと、これは奇跡ね」


 そこでリナは安心するように深く息を吐いた。


「あの、ヤマトの伝言って、どういうこと?」

「アルテバの町で偶然会ってね。そこでちょっと話すようになって。それで彼があなたたちに伝えたいことがあるから、あなたたちを捜して旅をしてるって聞いたの」

「伝えたいこと?」


 驚きはあった。彼はずっと町にいると思っていたので。

 しかも、リナの表情が少し曇り、気がかりになってしまう。


「あなたたちが捜している人のことみたい」

「ーーなっ」


 思いがけない話に、エリカと顔を見合わせた。驚きを隠せず、目を見開いたままで。


「……それって、“セリン”って人のこと?」

「ーー? 知っているの?」


 あの人と思えし名前を告げると、今度は姉妹が怪訝そうに首を傾げる。

 以前の黒マントとの出来事は伏せておいた。


「あなたたちが彼の町を旅立った後、そのセリンって人に会ったらしいの。そこで何かを言われたらしいの」

「何かって?」


 話を続けるなか、ふと姉妹は動きを止める。

 何か躊躇しているようにも見え、怪しくなる。


「荒らすなって言われたらしいの。それと、何かはわからないんだけど、何かは悪くないって」

「……荒らすな? 悪くない?」


 なんのことなのか一切、検討がなかった。


「それって、テンペストのことなの?」


 それまで怯えて身を丸めていたエリカが、急に口を開いた。

 急に喋ったエリカに、姉妹は驚きながらも首を傾げる。


「さぁ。それは私たちも詳しく話すことはできなかったから。ごめんなさい」


 黒マントの言っていた人物と、ヤマトが会った人物はおそらくは同一人物。

 黒マントは遺跡を調べているようにも見えた。


 あの二人は仲間?

 何を探しているんだ?


 ふと鼻頭を触って考えてしまう。


「そこまで深刻になるってことは、そっちにもそれなりの事情がありそうね」


 扉に凭れ直したリナが感心する。

 すぐに「いや」と苦笑した。

 話を聞いて、ちょっと頬が緩んでしまった。


「でも、それじゃぁ、またどこかで会えるかもな。あいつも旅しているんだったら、どこかで。それはそれで楽しみだな」


 人見知りのせいで、強張っていたエリカの頬が緩み、嬉しそうに目を輝かせて頷いた。


「……それは無理」


 自分たちの旅は前途多難であることは理解している。けれど、そんな旅でも再会できるかもしれない、と思え、楽しみかけたとき、光を遮断するようにリナの声が阻んだ。

 抑揚のない淡々とした声。それでいて弱々しい声が。


「どういうことだ?」

「……ヤマトは…… 死んだから」

 ヤマトが…… 死んだ?

   それになんでセリンのことを……。

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