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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき
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 第五章  1 ーー 対峙 ーー

 四十六話目なんだね。気がついたら。

 何が起きたの?

          第五章



           1



「何が言いたいんだ?」


 水の底から一気に地上に顔を出し、空気を肺に送り込むように息を吸い、そのまま叫んでしまった。

 真っ暗な視界が晴れたとき、殺風景な木目調の茶色が飛び込んでくる。


「……ここは?」


 体感的には数分前、木々に囲まれた湖の淵に立ち、謎の少女を眺めていたはず。


「大丈夫、キョウ?」


 意識が朦朧とするなか、横から声が届く。

 今になって感触からベッドに横たわっているんだと気づかされた。

 ゆっくりと声の方に顔を動かす。

 どこかの部屋の隅に置かれていたイスを倒す勢いで立ち上がったのは、エリカ。


「大丈夫なの、キョウ」


 エリカは表情を曇らせながらこちらに駆け寄り、僕の顔を覗き込んでくる。

 何、心配してんだよ。お前は大丈夫なのかよ。


「ーーっ」


 頬を赤くし、必死に呼びかけるエリカに靄がかかる。

 瞬きを繰り返していると、一瞬エリカの姿が変貌した。

 一瞬の出来事。

 一瞬だけエリカにあの少女の姿が重なってしまった。

 驚愕する間もなかった。瞬きをすると、心配そうなエリカに戻った。

 安堵した。


「……大丈夫。うん、大丈夫」


 このまま黙っていると、大声で叫んでしまいそうな勢いに負け、弱々しく宥めた。

 体を起こした。

 痛い。

 体は縄で縛られたみたいに重く、自由を奪われていた。上体を起こすのも憂鬱になる。

 それでも意識は意外にも鮮明であり、だからこそ気になってしまう。

 あの少女は誰だったんだろうか……。

 あれは夢だったのだろうか……。


「ねぇ、本当に大丈夫なの?」


 呆然としていると、またエリカが声を籠もらせた。


「……そうだ。僕らは確か、あの山に。ここってどこなんだ?」


 ようやく周りが見え出したとき、ここがどこなのか疑問が生まれる。エリカはイスをそばに引き寄せると、


「デネブの宿屋みたい。私もついさっき目が覚めた」

「デネブ? どうやってここに」


「なんか、山の麓で私たち倒れていたみたい。それを旅の人が見つけてくれたみたいで。それでここまで運んでくれたみたい」

「……そうなのか」


 変な気持ちが消えることはなかった。


「なぁ、確か、あのとき雨が降ったんだよな。なんか、変な雨だったけれど、それで…… あのとき、お前はどうしていたんだ?」


 夢だったのかはわからないけれど、あの少女の幻を見るまでの意識が朦朧としていた。


「あれはただの雨じゃない。絶対にテンペストの前兆だったはず。私はすぐに意識を失ったからわからない」

「……そっか」


 確信はないにしろ、テンペストかも、という予感はしていたので、素直に受け入れてしまう。

 また助かったのか、と奇妙な安堵感に包まれようとしていたとき、不意に部屋をノックされた。

 誰だ?

 と不審がりながらも返事をすると、扉が開いた。


「お、目が覚めたみたいね」


 明るい口調とともに、ひょっこりと顔が現れた。

 銀髪が目立つ、メガネをかけた少女の姿が。

 肩ぐらいまで伸びている銀髪の左側の一部を三つ編みにしてるのが特徴的な女の子。


「ほら、早く」


 誰ですか? と疑問が口を突こうとしていたとき、メガネをかけた女の子に背中を押されてもう一人、部屋に入って来た。

 こちらの女の子も銀髪で、同じように左側の一部を三つ編みにしている。

 目は対照的に細く、目尻が吊り上がっているせいか、気が強そうにも見えるし、警戒心は強そうだ。

 対してメガネをかけた子は社交的に見えた。

 背は髪の長い子の方が顔一つ分ほど高いけれど、雰囲気はどことなく似ていて、姉妹に見えた。

 髪の長い子は閉じた扉に凭れ、腕を組みながらこちらを眺め、観察しているようであり、メガネの子は嬉しそうに顔の横で小さく手を振っている。

 面識は当然なく、僕も眉をひそめてしまう。相変わらずエリカは人見知りが発動してしまい、身を縮めている。


「君ら、何か用?」


 こちらも警戒し、声が籠もってしまう。

 敵意を出していたとき、フッと長髪の子が笑った。


「影薄男に人見知り大食い女。見て言い当ててるわね。ほんと」

「影薄って」


 いきなり茶化した後、真剣な面持ちに変わり、


「あなた、“ヤマト”って子、知ってるわよね?」

「ヤマト? あの子がなんなんだ?」

「彼からの伝言よ」

 いきなり茶化された?

 どういうこと?

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