第四章 5 ーー 祭りが始まる ーー
四十一話目。
始まっちゃうんだよね。
4
町の沿道には人が次第に増えていた。
どうやら住民だけではなさそうだ。
住宅や店先に人が溢れている。
そして、広場に設けられた祭壇を囲むように焚き火が焚かれていた。
焚き火は夜風に吹かれて淡く揺れ、待ちわびれる者を照らし、建物に影を伸ばし揺れていた。
広場に集まる人の高揚感に、反比例するように、僕の心はざわついていく。
本当に犠牲はでないのか、と。
疑念は消えてはくれない。
人の多さが怖いのか、エリカもずっと僕の後ろで腕を掴んで放そうとしなかった。
エリカの緊張が手の平の熱で伝っていたとき、ざわめきが止まった。
それは風すらも止んだみたいに息苦しくなる。
住民の声なき眼差しが一つの方向に向けられる。
広場は円形になっており、その中心に祭壇はあるが、その正面からまっすぐ通路が町の奥へと延びていた。
釣られるように視線を動かしたとき、通路を塞ぐようにして人が壁となっていたけれど、視線に気づくみたいに、左右に分かれて通路が開けた。
扉が開かれた先に、人の姿があった。
道が開くと、その人は動き出し、祭壇へと向かって来る。
人の姿は五人。
二人、一人、二人と三列になって、揃えるようにゆっくりと歩みを進める。
最前列の二人は白装束に身を纏った二人の女。二人とも長い黒髪で、手にはランタンを持っていた。道先案内人のごとく。
二列目は一人の女の子だった。この子も髪を束ねた子で、まっすぐに祭壇を見つめていた。
服装は赤いスカートの長いドレスを纏っている。
そして、最後尾には二人の屈服の言い男がいた。二人は両刃の剣を胸の辺りで突き立てるようにして持っていた。
五人はゆっくりと通路を練り歩くと、祭壇へと進んでいく。
通路で眺めていた群衆の一部は、集団が通りすぎるのと同時に膝を着く者もいた。
特に年配が多く膝を着いていた。
信仰じみた動きが胸に不安を浸食していく。
祭壇のそばで向かい合ったとき、最前列でランタンを持っていた女が左右に分かれて広がり、赤いドレスの少女はそのまま祭壇の階段を昇り、壇上に上がる。
最後尾にいた男二人は階段のそばで足を止める。
そして、少女が壇上に立ち、振り返ったとき、ランタンを持った女、剣を持った男も祭壇に背を向ける形で立った。
地上に残った四人が膝を着いてしゃがみ込むと、剣を持った男が剣を両手で天に掲げた。
祭りが始まる。
思わず舌打ちをした。
何が誰も犠牲はないだ。 あの剣であの子を。
エリカがギュッと手を強く握った。
「ーー壊す?」
エリカの手をギュッと握り返す。それが僕の返事である。
祭壇に立った少女がゆっくりと両手を天に伸ばした。
祭りじゃない。
生贄の命が捧げられる儀式が始まる。
そんなことはーー
ウォォッ ウォッ ウォッ ウォォッ ウォッ ウォッ
刹那、町で傍観していた住民たちが一斉に足を地面に踏み鳴らす。
そして声を張った。
大声で叫び、呼応するように足を踏み鳴らす。
それは巨大な獣の咆哮みたいに凄みがあった。
「ーーキョウ、あれっ」
困惑して呆然とするなか、エリカが袖を引っ張り、ある方向を指差した。
壇上に立つ少女を。
少女は踊っていた。
両手を大きく広げ、爪の先までを天に伸ばす。
腰をくねらせ、ゆらゆらと揺らしてみせた。スカートの裾がひらりと風に揺れる。
その踊りは力強く、それでいて妖艶であった。
周りにいた住民は、少女の踊りに合わすように声を高ぶらせた。
それはまるで少女を崇めるように。
「どういうことなの、これ?」
怯えるエリカの声が響く。
「……わからない……」
「なんで…… なんで……」
月光に照らされながら踊り続けていく。何かに取り憑かれたみたいに。
「……なんで私、あの踊りを知っているの?」
少女の踊りに見覚えがあった。
それは、時折エリカが踊っていた踊りと同じであった。
こんなことってあるのか?




