第四章 1 ーー 追いし影 ーー
私に戻った。戻ったよっ、キョウッ。
三十七話目、始まりっ。
第四章
1
遅かった。
目の前に広がる光景に愕然としてしまう。
「テンペストを感じても、これじゃ意味がない……」
「勘が当たっただけでもよし、と考えた方がいいだろ」
下唇を噛み、悔しがるエリカに上手く答えられなかった。
これまでテンペストの被害は絵空事みたく、様々な形を聞いていた。
けれども、目の前に広がる光景は、それらの話ではなく、自分たちが体験した光景が広がっている。
大地を丸く何かに大きくえぐられたクレーターになっている。
それらがいくつも並んでいた。
規模としては町一つの大きさがある。
ただ、今となってはそこに町があったのか、と疑いたくなるほどに、地表が剥き出しになり、風が吹くと地表がパラパラと崩れ、砂が滑っていた。
穏やかな草原に現れた、重なり合うクレーター。
ゆっくりと進んでふとしゃがみ込み、大地に触れ、砂をすくってみる。
砂は乾燥し、指の腹で擦ればパラパラと落ちていく。
「ねぇ、本当にテンペストってなんなんだろうね」
エリカもしゃがみ込んだ横で立ち、空を眺めていた。
「見た目ではただの黒雲なのに、実際は雨や風が吹くわけじゃない。こうやって地面が濡れているわけじゃないし……」
「だよな。意味わかんねぇ」
自信が持てなくて言葉に覇気が乗ってくれない。
弱々しく立ち上がり、力なく息をこぼした。
「とりあえず、次の町に行くか」
「うん。お腹減ってきたし」
食欲出るか、こんなの見て普通……。
またしても、相変わらずの反応で、満面の笑みをこぼすエリカに、呆れてかぶりを振ってしまう。
確かに今回は野宿の間隔が長かったので、宿屋のベッドが恋しくなる。
自然と頬が緩みそうになったとき、眉間にしわが寄った。
「どうしたの、キョウ?」
服の袖を引っ張るエリカに、僕は顎をクイッと動かしてある方向を促した。
立っていた場所は、周辺でも一番大きなクレーターの中心。
窪みは深く下がっていたのだけれど、見上げた先を睨んでしまう。
ある人影を見つけて。
どこから現れたのか、いつ現れたのか、わからなかった。
窪みに背を向けて立っているので、こちらに気づいていないらしい。
「ねぇ、キョウ、あれって」
エリカは声を潜めて呟き、僕の後ろに身を隠す。
突如現れた人物は、全身を黒いマントで覆っていた。
顔を隠すフードを被っており、まったく容姿はわからなかった。
ただし、その姿は自分たちが捜している人物そのものだった。
一気に緊張が走る。
高揚して胸が熱くなる一方で、不安が気持ちを躊躇させる。
腕をギュッと掴んでくるエリカ。
腕を掴む力が強く、緊張が伝わってくる。
唇を舐め、息をグッと呑んだ。
「あんた、何やっているんだ」
恐る恐る声をかけた。
すると、黒マントの人物はこちらに振り返る。
それでも距離があるせいか、顔を確認することができない。
辛うじて口元が見えるだけ。
黒マントはこちらをじっと見下ろしているけれど、喋ろうとはしなかった。
「なぁ、あんた、あのときの人なのか?」
疑問を抑えることができなかった。大声で叫んでしまう。
黒マントは首を傾げる。
「誰のことを言っているんだ、君は?」
瞬間、エリカと顔を見合わせた。驚愕に目を見開いて。
記憶のなかにいた、あの人の声とはまったく違っていた。
声の質からして若い声。
どこか男とも女とも聞こえる声である。
「それより、何を言っているんだい?」
黒マントは腰に手を当て、仰け反ってみせた。
あの人のことを声にするのは怖かったけれど、せっかくのチャンスを逃したくなかった。
「僕ら、あんたに似た人を捜しているんだ。名前は知らないけれど……」
「僕に似た人?」
黒マントの口調が明らかに低くなる。警戒しているように。
「そいつとは、どこで会ったんだい?」
「ーーエルナ」
久しぶりに喉を通る言葉だった。
僕らの故郷の名前。
「エルナって、確かテンペストに……」
「そうだ。それで、その人に助けられたんだ」
町の名前を聞くと、黒マントはポンポンと納得するように手を叩いた。
「あいつも物好きだな」
……緊張感、なさすぎる……。
目の前の奴を警戒しろ。
でもまぁ、今後も応援よろしくお願いします。