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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき
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 三  ーー セリン ーー

 三十六話目。

 今回で第三章は終わりなのね……。

 って、最後? ん? 最後っ?


 静かだった。


 町には自分以外、誰もいない。

 話しかける相手もいなければ、こぼした言葉は風に散って、空しさを残してしまう。

 

 いつも、数人集まったなかで名前を呼ばれるのは、たいがいは最後だった。

 しかも、思い出したように。

 それほど決して町で目立つ存在じゃなかった。

 それでも、人と話す機会が皆無なほど無視されていたわけでもなく、人との会話がないわけではなかった。


 町が襲われるまでは。


 町のみんなの埋葬は終わった。

 これから空しさを背負い、町を襲った連中に対する憎しみに潰されそうになりながらも生きるんだ、と諦めていたとき、あの二人に出会うことができた。

 旅人であった二人。

 短い時間であったけれど、少しの間でも会話ができたのは嬉しかった。


 だから……。


 だから、二人が町を去り、一人に戻ると、忘れていた憎しみが心に膨れていき、怖かった。

 町のみんなの墓を前にしゃがみ込んでいた。

 日も暮れ、家に戻ろうと立ち上がったとき、背中に人の気配があった。

 二人が戻ったのか、と振り返ると、捉えた人物の容姿に目を丸くした。

 全身を覆い隠す黒いマントに身を包み、頭もフードで隠す、異様な姿をしていた。

 異質な姿にうなじの辺りが痛い。


「あなた、誰ですか?」


 息をこぼしただけだったのに、言葉がついてきてしまった。

 反応はない。


「あの、教えてください。もしかしたら、僕の知ってる人があなたを探している人かもしれないんですっ」


 突拍子のないことを言い、戸惑わせたのかもしれない。


 でも止まらなかった。


 容姿からあの二人が探している人に思え、詰め寄ってしまう。


「エルナって町を知っていますか? その人たちは、そこであなたに会ったみたいなんです」

「エルナ……?」


 それまで反応がなかったのに、ポツリと呟き、こちらに体の正面を向けた。

 声からして若い男に思えた。


「テンペストに襲われた町です。そこでその二人は生き残って、あなたに似た人に会ったみたいなんです。それで、あなたを捜しているみたいなんです」


 そこで黒男はかぶりを振る。

 人違いだったのか?


「あのとき、決してテンペストはエルナを襲ったわけではない。テンペストは悪くない」

「テンペストは悪くない?」

「テンペストは無碍に出現することはない。それは人が荒らすだけだ。何も悪くない。悪いのは……」


 意味がわからなかった。


 でも、


 テンペストは悪くない。

 今ならそれは理解できそうだった。


「本当に悪いのは人なんだ、きっと」

 不意に振り返り、墓を眺めながら弱々しくこぼした。

「どうせなら、テンペストに襲われた方がよかった……」


 本音が洩れた。


「何を言っている?」


 そこで、初めて男から声をかけてきた。


「この町は人に襲われたんです。僕だけ生き残って、ほかの人はみんな殺された。それだったら、すべてテンペストに消された方がマシだった」

「……争いは終わっていない、ということか」

「本当に悪いのは人なんだ」


 嘆くように、それでも憎しみを込めて吐き捨てた。

 同調するように男は黙り、空を見上げた。

「生き残ったのはお前だけか?」


 男の問いに黙って頷いた。


「きっと、それには理由がある。それはあのときに生き残った二人も」

「あの二人って、じゃぁ、やっぱり」

「だけど、テンペストを恨むな。それは違う…… 彼女は悪くないんだ……」


 男は聞き取れぬほど小声で呟き、背中を向けた。


「ちょっと待ってっ」


 去ってしまう。

 そんな焦りが急激に襲い、大声を上げてしまった。


「あの二人はあなたを捜してる。せめて名前だけ、名前だけでも教えて」


 このまま町にいるのも悪くない、と思っていた。

 けれど、それだけではダメなんだ、と警告する気持ちも存在している。

 そんな迷いに潰されそうになっていると、声が口を突いて出ていた。

 男は応えず、諦めから顔を伏せたとき、


「……セリン」


 男の微かな声が鼓膜を通る。

 安堵に包まれ、顔を上げたとき、男の姿は消えていた。



 使命感みたいなものが強く芽生えていく。


「……伝えなきゃ」

 

 私たち、出番なかったわね。残念。


 でも、物語は続きます。

 今後も応援よろしくお願いしますね。

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