最終章 12 ーー 誰だって誰かの生まれ変わり ーー
三百五十話目。
ようやく、私らの出番ってことなのね。
12
「……なんで? なんで私はアイナの意思を継ぐことができなかったの……」
壊れそうな声が風にまっているなか、包むように背中からギュッと抱き締めた。
「ねぇ、私はテンペストを鎮めなきゃいけないんじゃないの…… それなのに……」
「そんなの考えなくていい」
アネモネは私の腕を弱々しく掴んだ。
「アイナは私のことが信用できなくなったのかな……
なんで、私だけ置き去りになっちゃうんだろう……」
「だから、自分を責めないで。ね、アネモネ」
弱音を吐くアネモネに、私は小さくかぶりを振ることしかできない。
「きっと、きっとこの祭り、レイナがしたことは、本当は私がやらなければいけなかったんだと思う。この騒ぎは私が…… 私が……」
「ーー違う」
アネモネがこの先、何を言い出すか予測できてしまった。
だからこそ、遮断した。
そのままの勢いで、無理矢理振り返らせた。
「ーーそんなの絶対に違うっ」
アネモネが消えてしまう。
それだけは絶対に嫌。
私は全力で否定した。
「でも、私は世界の鍵を全部開けないといけなかったのよ。でないと……」
ーー鍵?
戸惑う私の腕をより強く握り、今度はアネモネが叫ぶ。
「ーー鍵? 鍵ってなんなの?」
「……アイナの意思を思い出したとき、そう感じたの。その鍵を全部開ければ、テンペストが鎮まるって信じて」
鍵を開く…… もしかしてテネフ山や、トゥルスの村にあったやつ……。
「でも、最近ではその鍵の場所がわらないの…… それって、私が無力だから、アイナに見限られたのかな、私……」
「何、言ってんのよっ、あんた……」
言葉に詰まっていると、アネモネは私の腕を掴み、
「だってそうでしょ。途中で止めるなんて、自殺行為だってことはわかっていたんだよ。そんなことをしそれば、星が壊れてしまうんだから」
壊れる? 何を言っているの?
「まさか、アイナがそれを望んでるわけないんだし……」
アイナが望む? 何を? 壊れることを……。
何が? 星が? ……まさか、ね。
すぐさま私はかぶりを振る。
アネモネが抱く不安をすべて払い除けたくて。
「ううん。絶対にそう。だから、だから、アイナは自分の望みをレイナに託したのよ。だから、最近は私に意思を伝えなかったのよ。そうよ……」
……ダメ、止めてっ。
そのときだった。
背中で誰かの声が響いた。
アネモネの恐怖を引き止めようとする声が。
どこかで聞いたことのある声。
エリカじゃなかった。
……もしかして、アイナ?
「レイナじゃなくて、私が死ねばよかったのよっ」
違う。
「ーー違うっ」
どこかからか聞こえた声が、誰であったのかはわからない。
けれど、アネモネの嘆きに思わず叫んでしまった。
アネモネの腕を掴み直し、
「そんなことは絶対に違うっ」
泣きじゃくり壊れそうにうずくまるアネモネに、叫んだ。
「いいっ、あんたはアネモネッ、アイナじゃないっ」
「でも、私はアイナの生まれ変わりなのっ」
「そんなのみんな一緒よっ」
「ーーっ」
「誰だって誰かの生まれ変わりなのよっ。でも、誰もが前世の誰かを意識なんかしてないっ。少なくても私はそうっ。違うっ?」
そう。
そんなことこだわっていたら、きりがない。
私も泣きそうに目を充血させ、訴えると、わなわなと震えながらアネモネは唇を噛んだ。
「いい? 何度だって言うから。あんたはアネモネッ。私の妹なのっ」
そう。
それに変わりはない。だから、何度だって言ってあげる。
悩んでほしくない。迷ってほしくない、と訴えると、ゆっくりと顔を顔を上げた。
依然、頬は涙で濡らしている。
そこに、私のかけていたメガネをアネモネにかけた。
泣いてはいるけれど、私の知る懐かしい顔が戻っていた。
メガネが本来の持ち主のもとに返される。
「あなたはアネモネッ」
強く言うと、アネモネは頷いた。
やっとアネモネが帰ってきた。
そう信じたい。
そんな高揚感に包まれ、アネモネを抱き締めたとき、ふと祭壇を見上げた。
そこにエリカはいない。
あのとき、矢がエリカに放たれたときだった。
一瞬、祭壇が光に包まれた気がした。
そして、そこにキョウの姿を見かけた気がした。
あれって、幻なの……。
リナ、私はどうしたらいいの?




