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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三章  11 ーー カサギ  (2) ーー

 三十五話目。

 ……もう我慢できない。


「あまりにもうるさいから斬ったんだよ。大体、誰に向かって騒ぐんだって話なんだよ」


 まったく非を感じていない姿に、我慢する掌に爪がめり込んでいく。


「そもそも、リキルは忌むべき町だったんだ。別に潰そうが関係ないだろ。本来だったら、ガキを斬ったとき騒いだアルテバも皆殺しにしてもよかったんだ。ま、俺の温情で助けてやったんだけどな。逆に感謝してほしいくらいだよ。邪魔者を始末したんだから」


 なぁ、と男どもに賛同を求めるカサギ。

 男らも湧き上がり、ゲラゲラと汚い声で笑う。

 我慢の限界なのか、アネモネが一歩踏み出し、襲いかかろうとするのを、右手を体の前に出して制する。


「いつの話をしているわけ? 今の人らは関係ないでしょうっ」


 アネモネを止めているくせに、自分を堪えるのは難しい。言葉がどうしても刺々しくなる。


「ハハハッ。どうして? 盗賊として逃亡生活が長いと、バカな連中に情が生まれてしまったか。怖いものだな」

「ーーそう」


 頭を上げられない。


「どうした? 自分らのバカな考えにようやく気づいたか?」

「えぇ、そうね。時代に順応できない無能だからこそ、人の上に立てないってことに、ようやく気づいたわ」


 力強く吐き捨てると、カサギの眉がピクリと動き、頬が引きつったのを見逃さなかった。


「だって、そうでしょ。時代に順応して、周りをしっかり見据えることができたアカギはそれなりの立場なんだから。確かあなたの上司よね」

「……なんだと」

「あら? 無能なのはあなた、なんて一言も言っていないわよ。それとも何? 自分のことを無能だって認めるんだ」

「さすが~っ。そんなことはできるんだ」


 挑発めいたことを畳みかけた。

 アネモネも負けじと続け、三つ編みを触って口角を上げる。


「調子に乗るなよ。盗賊姉妹がっ」


 すると、部下の一人が急に立ち上がり、怒鳴り声を上げる。

「あら、残念ね。あなたの部下はあなたのことを無能だと認めたわよ」


 追い打ちをかけると、部下は気まずそうに顔を背け、静かに腰を下ろした。

 無様な姿を鼻で笑った。


「そもそも、私らを盗賊だと言うけど、私らが何を盗んだのか知っているの?」

「大切な宝だと」


 声を絞り出すカサギ。

 明確なことは言わず、目を逸らしていく。


「残念ね。上の人らは、あなたにその宝がなんなのか教える必要がないと判断したのよ。見切られたってことなんじゃない? 無能さん」


 より強調して言い切った。


「……調子に乗るなよ」


 すると、カサギはグラスを投げ捨て、低い声でこぼしたあと、ゆっくりと腰を上げた。

 躊躇することなく、腰に下げていた剣に手をやり抜いた。

 続けて周りにいた男らも立ち、次々と剣を抜く。


「都合が悪ければ、すぐに力ずくになる。それが無能だっていうのよ」


 威嚇しているつもりだろうけど、まったく恐怖はない。

 そこで、背負っていたケースを地面に突き立てた。


「アネモネ」


 合図を送ると、アネモネは一度強く頷き、一歩前に出る。

 両手を下にグッと伸ばし、手の平を開くと、白い服の袖からナイフが飛び出てくる。

 それをスッと掴み、顔の前で構えた。

 私はケースに手を当てる。


「いいわ。特別にその宝ってのを見せてあげる」

 ほんとにバカとしか言えない。

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