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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 最終章  8  ーー  イカルとの再会  ーー

 三百四十六話目。

   なんで、みんな勝手に物事を進めようとするのよ。

            8



 長らく聞いていなかった声。

 聞くことがなかったからこそ、自分たちとは違い、後悔を残していない、と安堵していた声に驚愕してしまう。


「……イカル、なのか?」


 疑念にまみれながらも振り向くと、こちらに近寄って来る。

 長身の男は浅黒い肌に無精髭を生やし、長い髪を後ろで束ねていた。

 長らく会っておらず、突然現れたことに目を丸くした。

 俺たちと何も変わっていない。

 当時、別れたときの姿だ。

 密かにどこかにいるのでは、と考えてはいたけれど、再会することはなかった。


 だが、ここにいる。


 それは俺たちと同じということか……。


「イカル。やっぱりお前もこちらに」

「あぁ。俺もアイナ様は無念でしかない」

「ではなぜーー」

「裏切り者っ」


 イカルとの再会に驚くなか、急にミサゴが声を荒げ、イカルに詰め寄った。


「なんで、ここにいるなら、もっと早く出て来なかったっ。ずっとアイナ様もレイナも苦しんでいたんだぞっ。なんでもっと早く助けに来なかったっ」


 イカルの胸を叩き、声を震わせていくミサゴ。

 まるで子供が親に駄々を捏ねているように見えてしまう。


「きっとイカルも僕らと同じだと思っていた。だから出て来ないってことは、アイナ様のことを忘れて……」

「お前たちを見捨てたから、裏切り者か。言い当てているかもしれんな、それは」

「僕は謝りたかったのに。イカルに。あのとき、僕がもっと強ければ……」

「気にすることはない。俺の方が罪は重い」

 イカルの胸に顔をうずくまらせるミサゴの肩を叩くと、すっとレイナを眺めた。


「あなたは、レイナと呼んでいいかな?」

「えぇ。久しぶりね、イカル」


 レイナは平然と言い、優しく微笑む。


「あのときはすまなかった。お前を助けることができなかった」


 イカルは改まると、レイナはかぶりを振る。


「悪いがイカル、話を進めてくれないか。アイナ様が違うって」


 話を元に戻そうとすると、塞ぎ込むミサゴを諭し、一歩前に出た。


「そうだな。今の時代に現れているアイナ様は偽物だ」


 ーー偽物?


 聞き捨てならず、耳を疑ってしまう。

 こればかりは俺だけでなく、レイナにミサゴも驚愕し、二人の視線がイカルへ注がれる。


「どういうこと?」


 レイナの声が際立った。


「お前たち、言っていただろう。星の嘆きが今、強くなっていると。それと同じだ。アイナ様の姿をした幻だ。星が作り出したな」

「……? どうして、そう思うの?」

「多分、俺が思うに、星が訴えたいことをアイナ様の姿を借りてるんだ」

「それはテンペストは人が恐れることによってより、恐怖になるとか」

「そればかりは、わからん。だが、言えるのはあれはアイナ様の本心ではない。俺も何度か遭遇したが、あれは絶対に違う」

「遭遇? お前はどこにいたんだ?」


 幻だとしても、アイナ様に遭遇することに疑念を抱いてしまう。


「俺がいたのはアンクルスだ」


 アンクルス……。


 突然イカルが現れたことに驚かされるが、また驚かされた。

 そんなところにいたとは。


「そこで感じたのは、やはり危機感だな。最近はテンペストによって、彷徨っている想いをよく見ることになったのでな」

「よくあんなところにいるよ。僕なら、あんなところになんか行かないよ」


 涙を拭うと、ミサゴは我に返り、また皮肉を返した。


「それがレイナを助けられなかった罪として、甘んじて受け入れた。だが、今はじっとしてはいけない気がしてな。それで、ここに来た。あそこではちょっと不思議なことがあったからな」

「不思議なこと?」


 引っかかりはしたけれど、イカルはそこには触れようとしなかった。

 イカルまで……。

 みんな、私のいない場所に……。

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