最終章 3 ーー ハクガンの考え ーー
三百四十一話目。
ワタリドリの事情なんて知らない。
けど……。
3
話を呑み込めず、呆然とするセリンを一度制した。
「あの当時、人々はテンペストがすでに恐怖をもたらすものとして捉えていました。でも、おかしいと思いませんか? 以前は普通の天災として広がっていたはずなんです」
「それは一度、命を奪うものと化したからだろ。それは変わらない事実だ。仕方がないだろう」
語句を強め、事実を強調するセリンに、またかぶりを振る。
「ですが、人の業で強まっています。そこで私は考えてしまったんです。だったら、テンペストの性質を知らなければ、そうすれば、テンペストに恐怖の抱き方が変わっていたんじゃないか、と」
「知らなければただの天災でしかなかった、と?」
しばらく考えたのち、顎に手を当てながら、不安げに答えるセリン。
私も頬が緩んだ。
「これは私の推測でしかないのですが、もしテンペストの怖さを誰もが知らなければ、テンペストが牙を剥くことはなかった。人の命が奪われなければ、怒り、憎しみは生まれることはなかったんじゃないかと。そうなれば、人は戦争という愚行にならなかったんじゃないか、と考えたのです」
「ただの天災で済んでくれれば、例え死者が出ても、憎しみは抑えられると」
「楽観的ではありますが」
苦笑するしかなかった。
「まぁ、私が捻くれているからかもしれませんが」
「そんなことはないだろ」
「それで、人々の記憶から、“テンペスト”に“ワタリドリ”に対することがなくなれば、と考えたのです」
「なくすって、いや、そんなことは無理だろう。当時、テンペストを知らない者なんていなかったじゃないか」
「えぇ。ですが、それは当時だけで解決しようとすると無理でしょうね。だから、私は長い年月をかけてしようと思ったのです。数年、数十年ではなく、何千年という時間を使いまして」
「本気で言っているのか? そんな途方もない話」
私の考えを聞いたセリンは呆然とし、声を詰まらせてしまう。
ハクガン……。
無茶なことを……。




