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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 最終章  2  ーー  捉え方  ーー

 三百四十話目。

   あのとき…… 何が起きたの?

            2



 ベクルの郊外。


 そこで膝を着くと、地面の砂を一握り拾い上げ、こぼしていく。


 さらさらと落ちていく。


 手の平から砂がすべてこぼれ落ちると、ギュッと握り、辺りを見渡した。

 視界に入るほとんどが荒廃し、砂地と朽ちていた。

 丸いクレーターが折り重なるようにして。


 ここはテンペストに呑まれた場所。

 そして、その奥にベクルの街が陽炎となって揺れていた。

 遠くのベクルを眺めていると、自然と溜め息がこぼれた。


 テンペストが襲った大地に。


「……奇妙な光景だな」


 途方に暮れていると、しゃがみ込む私の後ろで、セリンが嘆いた。


「えぇ。まるでベクルを取り囲むようにも見えるし、逆にベクルを避けて起こったようにも見えますね」

「ミサゴの話では、この辺りには、兵の集団が待機していたみたいだ。まるでベクルへの襲撃を待っているように」

「どう思う、ハクガン。このテンペストを」


 セリンの奇妙な問いに立ち上がり、首を傾げてしまう。

 思いのほか、真剣な面持ちでこちらを見ていたセリン。


「俺にはベクルを避けてるように見える。ベクルを襲おうとする者を狙っていたように」

「それは捉え方の違い…… いや、そこにレイナの意思が浸透しているということなのでしょうか」

「詳しくはわからないがな」


 確信を持って言えないのだけれど、どこかでそうであってほしい、と願ってしまう自分もいた。


「……レイナにアイナ様。あの二人には本当に負担をかけてしまいますね……」

「苦しいよな。俺たちはあのとき、戦争が起きようとしたときから、本当に何もできない」

「……ですね」


 テンペストの跡を眺めていると、こぼれるのは悔しさだけ。


「俺たちはいつもあの二人の背中を見ることしかできなかった」


 セリンの言葉に深く頷くしかできない。

 目蓋を閉じると、姉妹二人が並んだ後ろ姿が浮かんでしまう。


 手助けしたいのに、何もできない。


 手を伸ばそうとすれば、二人との間に深い霧が生まれ、二人の姿を霞ませてしまう。

 空しさだけが体を支配していく。


「……私たちは、これ以上二人に負担をかけたくない、とあのときから覚悟したつもりでいたんですがね」

 奥歯を噛み締め、頭を掻いてしまう。


「……あのとき、アイナ様に背を向け、己の考えを貫こうとしていたのが悪かったのでしょうか」


 戦争が始まる間際、アイナ様を体を呈して制しておけば……。


 すべては祭りの後、ですが。


 皮肉な言葉に嘲笑してしまう。


「珍しいな。お前が自分の行動に迷うとは」


 動揺を隠せずにいると、セリンは心配するが、私も返す言葉はない。


「なぁ、ハクガン。お前はあのとき、何をしようとしていたんだ?」


 すると、急に真剣な面持ちで問われ、息を呑んでしまう。

 そうですね。と小さく何度か頷き、ベクルの方向を眺めた。


「私はすべてを忘れてほしかったんです」

「ーー忘れる?」

「……テンペストは人の業によって威力を増し、人々を恐怖に陥れてしまったんじゃないか、戦争への道が高まるなか、そんな疑念を感じることが多くなったんです。そこで、一つの疑念、いえ、期待、もしくは希望といえばいいでしょうか」

「希望か。長らく忘れていた言葉かもしれんな」


 そこで、鼻で笑うセリンをぐっと見詰めた。

 顔の前で人差し指を立てる。


「そう。それを望んでいました」

 レイナ……。

  セリン……。

     みんなどこ? 

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