第三章 10 ーー カサギ ーー
三十四話目なんだけど、本当にイライラするっ。
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遺跡は見晴らしのいい場所に存在していた。
だからこそ、ここの石柱は遠くからでも、その異様な存在感を漂わせている。
どこか、威厳すらある遺跡に、今は似つかない煙が立ち昇っていた。
遠くからでも、馬の姿、石柱に座り込む人影を捉えた。
臆することなく、遺跡へと進んだ。
こちらは逃げも隠れもしない。
ましてや見晴らしのいい場所なのに、こちらに気づく者がいない。
その無警戒さがより気持ちを逆撫でさせる。
馬らがいる、手前にあった細い石柱のそばに来た時点で、ようやく一人の男が気づき、立ち上がった。
手にはアルミのグラスを持っている。酒でも飲んでくつろいでいたのか。
そいつだけでなく、周りにいた男のほとんどがグラスを持ち、中央に焚き火が炊かれており、火を囲んで座っていた。
全員で八人。
騒然となるなか、中心に座っていた小柄の男が顔を上げた。
「……久しぶりね、カサギ」
「ほぉ、奇遇だな。こんなところで会うなんて。リナリア。それにアネモネ」
私らを見るなり、仰け反って岩に凭れると、男はキツネみたいに細い目をより細めて不敵に笑った。
顎が尖っているため、口が大きく見えてしまう。
男たちはみな、統一された青い服を着ていた。
そして、中心にふてぶてしく構える男はカサギ。
恐らくこの集団のリーダー。
私たちとは顔見知りであった。
「よく言うわね。私たちのことをつけ狙っているくせに」
一歩も引くことは許されない。一定の距離を保ち、吐き捨てた。
「……まったくだよ。こっちとしては、早く見つけたかったのに、こそこそ逃げ回られ、おかげで疲労困憊だ。だから、こうして休息しているところだよ」
カサギは両手を大きく広げ、今の状況を示すようにし、ゲラゲラと汚い声で嘲笑うと、周りにいた男どもと高笑いをした。
「まさか、美人姉妹とうたわれたお前たちを追うことになるなんて、考えてもみなかったからな。国の重罪な盗賊姉妹として。
あ、でも俺たちは光栄に思ってるぞ。お前らを追えることに。汚いネズミを狩るのは嫌いじゃない」
嫌味ったらしく、饒舌に動く口を蹴りたい衝動を懸命に堪え、
「へぇ。そんな追跡隊なんて出ていたのね。知らなかったわ。私たちも心配になるわねぇ。無能な追跡者で成り立つのかなって」
「違うって、リナ。追跡者はあまりに優秀だから、優雅に休息を多く取っていたんじゃない」
「あぁ、そうね。だから私たちも楽だったのね」
“無能”と“優秀”を強調して皮肉り、「フフフ」と口元を手で押さえて笑ってみせた。
あからさまに茶化してみると、一人の男が癇に障ったのか、グラスを投げ捨てて乱暴に立つ。
そのまま詰め寄ろうとするのを、カサギが手を出して制し、渋々男は座った。
「あまり部下を刺激してくれるなよ。俺らはお前らを殺してもいいって命令が出ているんだからな」
顎を引き、下から睨むように脅すカサギ。
それをかぶりを振って受け流した。
「でも、関係のない人まで殺す必要はなかったんじゃないの?」
「関係ない奴?」
「リキルって町の住民、皆殺しなんて酷いことを忘れたなんて、言わせないわよ」
「リキル? 知っているか、お前ら?」
カサギはわざとらしく首を傾げ、周りにいた男どもに問いかける。
男らもふざけるように「さぁ?」と嘲笑う。
まったくもって、癇に障る奴である。
「さっき、アルテバで男を斬ったでしょ。知らないとは言わせないわよ」
アネモネが声を荒げる。するとカサギは何かを思い出したように両手を叩いた。相変わらずわざとらしく。
「あぁ、あのガキね。あれは自業自得だ。町を襲ったのは俺たちだって騒い…… あぁ、あれが騒いでいたのがリキルか」
そこで納得したように、頷いた。
もう、喋らないでほしい。
……ほんとに。




