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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 最終章  1  ーー  言葉を失う  ーー

 三百三十九話目。

  最終章?

  それって、本当に終わりってこと?


           最終章



            1



 言葉を失った。

 俺の判断はすべてが後手に回ってしまった。

 すべてが間違っていたんだ、と自身を強く叱咤した。

 ベクルは数十分で激変してしまった。


 どれだけの住民が殺された?

 なぜ、もっと早く兵を配置しなかった。

 なぜ、イシヅチの兵が紛れていることに気づけなかった。

 街の外に敵がすでに配置されていたんじゃないか。

 なぜ、それに気づくことができなかった。

 いや、そもそも、祭りを行おうとしたことが間違っていたんじゃないか。

 祭りを行わなければ、街の警備に兵を割くことができたんじゃないか。


 狂いそうになるほど、疑念と後悔が体を縛ってしまう。

 頭を抱えずにはいられない。

 ただ、目を逸らしてはいけない。

 惨劇から逃げてはいけない。

 それはダメだと痛感しながらも、直視できなくなる。


「……俺は何をしていたんだろうな」


 そばでベクルを見守っていたアオバも言葉を失い、答えることはなかった。


 ベクルでは、部下たちが駆け巡っている。

 傷を負った住民や治療に当たってくれていた。それでもやはり死亡した者の数の方が多い。

 状況を把握しようと歩いていると、祭壇の設置されていた十字路に差しかかった。

 そこが一番被害が多い。

 通路には命を堕とした住民が今も寝そべったままである。


 きっと、もう目覚めることはない。


 つい膝を着き、手を合わせた。


「ですがわかりません」


 惨劇が俺を責めるなか、アオバが呟いた。


「なぜ、イシヅチの奴は祭りの最中を狙ったんでしょうか?」


 アオバの指摘に視線を移した。

 恐らくこの騒動の主犯はイシヅチ。

 込み上げる怒りをぶつけたく、すぐに拘束したかったけれど、それは叶わない。

 イシヅチは命を堕としていた。

 こいつの実力も油断できる奴でもなかった。だから、相当の戦闘があったのだろうけれど、それにしては、戦闘の形跡は少ない気もあった。

 それでも、通路の真ん中で、仰向けになって倒れていた。


 一撃で……。

 誰と戦ったのか……。


 だが、指導者がいなくなったことで、統率が崩れ、騒ぎが静まったのも事実であった。


「恐らく、住民らの注目が祭りに注がれ、注意が散漫になると思っていたんだろう。そこを狙い、掌握しようと企んでいたのかもな」

「それにしては、どこか中途半端にも見えるのですが」

「もしかすれば、それが狙いだったのかもな」

「狙いですか?」

「あぁ。以前、奴は言っていた。人々を苦しめるのが目的だったのかもしれない。祭りに人々が希望を寄せるところで心を折ることが。そこでさらに恐怖を植えつけることがな」

「そうすることで、よりテンペストに狙われる可能性が増えると?」


 小さく頷いた。


「……イシヅチが死んだことによって、今後、このような騒動はなくなるのでしょうか」

「悔しいが、確証はないな。まだ不安要素がなくなったわけではないからな」

「……ローズですね」


 イシヅチの胸に刺されていたナイフはローズの武器。

 仲間割れ、と楽観視できないだろうけれど、今は静かにしてもらうことを願うしかないな。


「なぁ、アオバ。俺は間違っていたか?」

「ーーはい?」


 不安になり、アオバの顔を見上げた。

 アオバは黙り、俺を真剣にじっと見下ろしてくる。


「間違っています」


 しばらく思案した後、アオバは揺るぎない目で強く発した。

 するりと胸にのしかかってくる。


「俺は正直、祭りを行ったことが間違いだと思います。それよりもイシヅチの捜索に力を入れるべきであったと」

「……そうだな」


 当を得た指摘。

 返す言葉もなく、唇を噛むしかなかった。

 アオバのまっすぐな叱責を甘んじて受けていると、不意にアオバは顔を背ける。


「でも、人はどうしても間違いをするもの。とも俺は思っています。偉そうなことを言わせてもらえば、その先が問題だと思います」

「その先、か」

「はい。ここで後悔して立ち止まってしまうのが、俺は間違いだと思います。このまま“蒼”は持続するべきかと。それが俺たちの使命だと、この状況を見ていると感じてしまいます」

「……そうか。じゃぁ、テンペストはどう思う?」

「上手くは言えませんが、ここで動揺してしまえば、ここで倒れてしまった者をさらに見捨ててしまうような、と思います」


 アオバは通路に倒れている者を眺め、語気を強めた。


「強いな、アオバは」


 揺るがない言葉に、感心してしまう。


「いえ。これらはすべて隊長から教えてもらったことです」

「そう言ってもらえたら、嬉しいよ。ありがと」


 そうか、そうだな。

 立ち止まってはいけないんだよな。


 この惨劇を惨劇で終わらせてはいけない。


 これから先の険しい道のりを進まなければいけないのだから。

 

 すべてが終わるってこと?

 ……レイナ……。

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