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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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338/352

 第五部  終  ーー  感受性  ーー

 三百三十八話目。

  第五部が終わり?

  九章なんて、キョウにエリカも出なければ、私も出番がなかったじゃんっ。

  どういうこと、これっ?

          第五部


           終



 感受性が強い。


 そんなことを子供のころからよく言われていた。

 確かにそうかもしれない。

 風の匂い、空の色を肌に感じると、天気などを予想することがよくあった。

 時には、テンペストが遠くで起きていることも、なぜか風が教えてくれるような。

 どこか胸が苦しくなったり、寂しくなったりすることがあった。

 

 そんなとき、私たちはよく踊っていた。


 踊ることは子供のころから好きだったし、不穏な空気に締めつけられる気持ちを紛らわしていた。


 何より楽しかったから。


 でも、楽しんでいるだけなのに、いつしか村の人の視線が少しずつ変わっていった。


 どこか、他の人と違う。


 尊厳すら漂うような……。

 どうも私らを神格化しているような。


 そんな気概があった。


 正直、陰で私ら姉妹を蔑む人もいることは気づいて見て見ぬ振りをしていることもあった。

 でも、いつしかそうした視線も少なくなっていった。

 後から考えると、変に崇められるより、その方がまだマシだったかもしれない。


 普通の人として接してくれている方が。


 でも、期待を裏切るのも心苦しかった。

 だから、文句なんて言えるはずもなく、私らは村で特別な存在へと変わっていった。

 少なくても、私らの自覚を置き去りにして。



 そのころ、アイナがどうだったのかはわからない。


 怖くて聞けなかったから。


 どこか、後ろ指を差されるような煙たさを抱いている日であった。

 アイナは村の外れにある草むらにしゃがんでいた。


 そこには一つの穴があった。

 村の人は鍵穴と呼び、いずれアイナが大剣を刺す場所であった。

 その穴のそばに、一輪の小さな花が咲いていた。

 それを見た瞬間、それまで肌で感じていた世界の叫びみたいなのは、この小さな花が訴えているような、そんな感覚があった。


 アイナも同様だったらしい。


 アイナも花を見つけ、どこか悲鳴に似た感覚を抱いたらしい。

 だが、アイナは私よりも敏感だった。

 花がしっかりと訴えていると言っていた。

 星が助けを求める言葉が伝わる、と。


 疑うことはなかった。


 私も言葉はわからなくても、この花が助けを求めているのは伝わっていたから。

 けれど、花の訴えに気づいたのは私ら姉妹だけだったらしく、村の人々は気にとめることもなかった。


 だからだろうか。


 余計に危機感は強くなった。



 私は感受性が強い。

 神格化されるのはもってのほか。

 でも、それは傲慢でワガママなのかもしれない。


 少なくても、アイナは別格。


 私は村の人に、アイナに、それにセリンに噓をつかなければいけないのかもしれない。

 けれど、すべてを背負わなければいけない職務、責任なのかもしれない。



                 第五部


                  了

 九章の話……。

  誰の話だったの?

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