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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第五部  第七章  4  ーー  空に舞う  ーー

 三百二十六話目。

   エリカ、あんたは祭りを否定していたんじゃないのっ。

            4



 そこにいるのはエリカ。


 そうだ、と奇妙な確信を持てたのだけれど、だからと動くことはできなかった。

 それまで力強く見えていた踊りなのに、急に踊りすべてが脅えているように見えてしまう。


 なんだろう。助けを求めてるの? 


 ……だったら。


 唇を強く噛んでしまう。


「ーーっ」


 エリカの踊りが続くなか、視界の片隅で動くものを捉えた。

 通路に立っていた“蒼”の兵らが、動きを見せた。

 手にしていた弓を一斉に傾ける。

 弓には矢が構えられる。


 その先は……。


 エリカに向けられる。


 なんで……ーー。


 胸がえぐられそうになると、エリカは両手を天に掲げる。


 大剣を空に掲げる形で。


「エリカ、逃げてっ」


 足が動く前に叫んでいた。


 オォォォッ。


 だが、私の叫びはエリカの動きが止まるのと同時に沸いた住民の咆哮に掻き消されていく。


 間に合わない。


 周りにいた住民の背中を押しのけ、無理矢理近づこうとしたとき……。


 悲鳴が駆け巡る。


 エリカを狙っていた矢は、祭壇を眺める住民らに向け、放たれた。

 瞬きを忘れるほどの瞬間、視界がねじれていく。

 辛うじて瞬きをすると、咆哮が悲鳴に歪んでいった。


 どうして?


 一瞬の出来事。

 ほんの一瞬で周りの状況が一変した。

 通路に立っていた兵らが、弓の兵に呼応し剣を掲げ、そのまま体を反転させると、振りかざした剣を住民らに振り下ろした。


「なんなのっ、これっ」


 疑念が体を動かす前に、凶行に出た兵らが次々と周りの住民らを襲っていく。


 動けない……。


 人々の悲鳴と、血しぶきが宙に舞っていく。


 私だけの時間が止まっていく。


 倒れていく人のなか、私だけが立ち尽くしている。


「……リナ、これってなんなの。もしかして、反乱?」


 アネモネに腕を掴まれ、ようやく時間が動き出す。


「ーー反乱?」


 よく見れば、“蒼”の兵同士が刃を交わしている姿があった。


 反乱って、もしかして。


 イシヅチの憎らしい顔が頭をよぎった。


 そんな、そんなことって…… 何を考えてるのよ……。


 困惑に潰されそうになっていると、急に耳鳴りが襲った。

 悲鳴。

 怒号。

 困惑。

 咆哮。

 すべてがノイズとなって耳を押し潰そうと圧迫していく。

 雑音が迫るなか、何かが軋む音がさざ波みたく流れ込んできた。


「どうしたの、リナ?」


 奇妙な雑音を追ってキョロキョロしていると、通路の奥に視線が止まる。

 開けた通路の奥に、うごめく影があった。


「あれって、兵?」


 疑問がこぼれたとき、影から無数の線が空に駆け上がる。

 線は重力に引っ張られ、地上へと降り注いでくる。


「ーー逃げて、アネモネッ」


 咄嗟にアネモネの腕を掴み、引き寄せた。


 無数の線は放たれた矢。


 また矢が悲鳴が響めく人の輪に放たれた。


「なんでこんなことにっ」


 形にならない怒りを空に向かって叫んだ。


 叫ばずにはいられなかった。


 憎さに通路に飛び出したとき、それは襲った。

 天から無数の矢が降り注がれた。



 色が消えた……。


 降り注がれた矢のほとんどが住民に。

 咄嗟に逃げ、私らは助かったけれど、数秒前までいた場所に悲惨な光景が広がる。


 辺りがすべて真っ白に消えていく……。


 ーー ……の始まり。歓迎しようよ、ね。



 ……えっ?

 こんなの違うっ。

   こんなの絶対に嫌っ。

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