第五部 六 ーー 掴めない腕 ーー
三百二十二話目。
大変だっていうのに、章は終わり?
手を伸ばせば、すぐに腕を掴める。
いつもそんな近いところにあいつはいてくれた。
決してたくましい腕なんて言えない。
カッコよくもないし、私がご飯を食べていても「食べすぎ」だって呆れるときは、本当に殴りたくなるときもあった。
カッコよくもないのに、偉そうにするなって。
ーーでも。
一瞬、目の前が広がったとき、耳に届いた言葉が鋭い刃となって、頭を突いた。
……信じたくない。
この人は大丈夫。
セリンは信じられる。
胸の奥で誰かが優しく言ってくれる安心感からか、信じられると思っていたのに。
なんで?
なんで、そんなに平然と言えるの?
なんでそんなに苦しまないの?
セリンに初めて怒りを覚えてしまい、叫ばずにはいられなかった。
なんで?
キョウが…… 死んだ?
そんなの嘘でしょ?
………。
………。
あいつがいないってどういうことよ……。
もう私がどれだけ手を伸ばしてもいないの?
その腕を掴むことはできないの?
ダメなの?
そんなの……。
私はどうしたらいいのよ。
あいつの腕を掴めないなんて。
憎らしくても、どこか安心できる顔をもう見られないの?
そんなの……。
そんなの嘘でしょ……。
だったら……。
私はどうしたらいいのよ、キョウ……。
もういい。
もう、私はどうなっても……。
……レイナ? それとも……。




