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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第五部  第六章  10  ーー  先生との再会  ーー

 三百二十話目。

 動くのに、多少の乱暴だって許されるわよね。

             10



 アネモネを勇気づけられたか、と問われれば、失敗したんだと痛感しなければいけない。

 あれからも何度もアネモネに話しかけていたのだけれど、これまでよりもさらに渇いた返事しかなかった。

 完全に無視されることも何度かあったし。


 時間だけが空しく流れていく。


 流れていく時間がどこか無駄に感じてしまう。


 アオバの話じゃ、祭りが行われるのって……。

 急がないといけないのに……。


 うねる天井を眺めていると、ちょっとした衝動に駆られてしまう。


「ねぇアネモネ、なんだったら、この鉄柵壊して脱走してみる? 昔みたいにさ」


 手の平を眺めてつい冗談をこぼしてしまう。


「止めて。リナが言うと、冗談に聞こえないんだから」

「別に私はいいよ。ここで待つよりも、それの方が楽しそうだし」


 なんだか話に乗ってくれそうな気配。

 つい背を伸ばして体を解してしまう。


「でも、確かにここにずっといるわけにもいかないわね」

「でしょ。このままじゃ、体も鈍ってしまいそうだからね」


 どう鉄柵を壊すべきか、眺めていると、奥の通路に照らされていた灯りがゆらゆらと影が揺れた。


 誰か来る。アオバ?


 伸ばしていた腕を下ろし、息をひそめてしまう。


「これ以上、自分の立場を悪くする必要はないんじゃないのか。リナ」


 またアオバに一蹴されたのか、と頬を歪めると、すぐに違うことに気づいた。


「ーー先生っ」


 聞き覚えのある声に、声が弾んでしまう。

 鉄柵の前に現れたのは、呆れた様子で目を細め、小さくかぶりを振っていた。


「リナ、お前はいつになったら、大人しくしてくれるんだ?」


 腰に手を当てて諭す先生に、返す言葉はなく、ふてくされて顎を擦ってしまう。


「先生っ」


 すると、隣のアネモネが恐る恐る声をかけた。

 声に反応した先生は、穏やかに頬を緩ませ、


「アネモネ、久しぶりだな。この前は驚いたぞ。いきなりあんなことを言って。でもこうして会えたことは嬉しいよ。元気だったか?」


 なんだろ。

 態度が私と違う気がするのって、気のせい?


「でもな、アネモネ。あまり人を心配させるようなことはするなよ。リナも本当に心配していたんだからな」


 柔らかでありながらも、強い口調でアネモネを窘める姿に、自分との対応の違いはどこかに飛び、安心してしまった。


 まるで父親みたいに寛大に見えて。


「……先生、ごめんなさい。その腕……」


 屈託なくアネモネの牢屋を見詰める先生に、アネモネのこもった声が響く。


 そうだ。先生の腕を奪ったのはミサゴ。


 腕のことを言われ、先生は思わず左肩に手をやる。


「気にするな。これは私が未熟だったからのことだ」

「でも、ツルギ隊長だって……」


 貴女に振る舞い、宥める先生にアネモネは食い入るが、責任感から声を詰まらせる。


「これはこれだ。気にするな」


 泣き出してしまいそうなアネモネに、先生の声が覆い被さる。

 気持ちが静まったのが鎮まったのか、先生は一度頷く。


「しかし、お前たちはまた騒ぎを大きくするつもりか?」


 そこでまた私の方に体を向け、注意を飛ばしてくる。

 やっぱり、私には冷たくない?


「仕方ないじゃん。私たちだって、暴れたくはないけど、“蒼”の連中が閉じ込めたんたまから」


 そう。私たちに非はないんだけど、先生は渋い顔を浮かべる。


「だからって、力で解決してどうする。それじゃ、なんの意味もないだろ」

「それは、そうだけど……」

「暴れるなら、違うところで暴れるんだな」


 正論を掲げられ、為す術なくうつむいていると、先生から耳を疑う言葉が聞こえた。


「暴れろって、えっ?」


 聞き間違いかと先生を見詰め、瞬きを繰り返してしまうと、先生の真剣な眼差しとぶつかってしまう。


 普段見ない冷徹な眼差しに、萎縮してしまう。


「祭りが行われようとしている。お前たちは祭りを止めろ」

「ーー祭り?」


 そうだ、アオバが三日後だって。それって今日?


「なんで?」

「祭りはするべきではない。と私は思う。なんだろうな。より人が混迷に墜ちてしまいそうな気がするんだ」

「だからって、そんな」

「生け贄は? 生け贄はあるの?」


 突然の話は衝撃が大きく、戸惑っていると、アネモネが隣から声を挙げた。

 胸の奥に埋まっていた疑念を代弁してくれた。

 そこで、先生の表情が一層曇った。

 気まずそうにする様子からして、生け贄が利用されるの明白。


 だけど、どこか変。


「生け贄は…… エリカさんだ」

「ーーエリカッ?」

「ーーなんでっ」

 ……先生、ごめん。

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