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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第五部  第六章  9  ーー  歪む考え  ーー

 三百十九話目。

   私ら、悪いことなんてしていないのに。

           9



「お前たちも住民の反応を見ていただろう。みんな、テンペストに敏感になってる。住民の気持ちを鎮めるには、祭りを行う以外になかったんだ。このままだと住民同士で争いが起きかねなかった。仕方がないんだ」

「だからって、あんたはそれで納得してんのっ?」


 少し強く当たってしまった。

 それでもアオバは反論することなく、顔を伏せてしまう。


 この子自体は納得していないってことね。


「だったら、先生はなんて言ってんのよ。先生がそんな簡単に認めるはずなんかないっ。それにハク…… ワシュウはっ。あいつだって賛成はしないでしょっ」


 どうしても引き下がることができず、食い入るが、アカギはかぶりを振ってしまう。


「先生って、ヒダカ隊長か。もちろん、あの二人は最後まで反対していたさ。そんなことはしない方がいいと。それでも街の行方を考え、渋々そうなったのだ。誰も責められない」


 苛立ちで頭を抱えて唸ってしまった。


 私もやっぱり納得できない。


「それで、先生は。先生はどこにいるの?」

「お二人は今、隊の監視下に置かせてもらっている。彼らも指導者の威厳を持つ方々。表に出てその発言が住民に影響を与えかねないからな」

「ちょっ、それって体のいい軟禁じゃないのっ」


 二人に対して尊厳を持って喋るアオバであったけれど、納得なんてできない。

 待遇の形に苦言を呈すが、アオバは顔を背けるだけ。


「話はそれだけだ」


 もっと詳しく聞きたかったのだけど、アオバはもう終わりたいのか、鉄柵に背を向けた。


「……もう、決まってしまったんだ」


 弱々しく言うと、この場を去ろうと、歩を進めた。


「ちょ、待ちなさいよ。だから、先生に会わせてっ」


 廊下に響き渡るほど叫んだとき、唐突にアオバの歩が止まる。


「……三日後だ。祭りは」


 ーーっ。


 大きすぎる衝撃が意識を鈍らせた。


 返事ができなかった。


 遠くに去るアオバの後ろ姿を見送るだけで。



 アオバが去った後、崩れるように膝を抱えて座った。

 ボコボコとした薄暗い天井を瞬きもせず、じっと眺めていた。

 やっぱり、みんなどこか歪んだ方向に進んでしまっている。

 形のない悔しさに、溜め息がこぼれた。

 そのまま倒れてしまいそうななか、壁に凭れて横を見た。

 ぼんやりと松明の灯りに照らされた廊下ではなく、もっと横、私の背中になる隣の牢屋。


 アネモネが収監された部屋を。


 ずっとアネモネは黙ったまま。

 きっとあの子にしたって、気がかりになっていることは多いはず。

 それなのにずっと黙っているのは、きっと祭壇での憤りが関わっているのかもしれない。

 それだけ私の知らないところで、追い詰められた事情があるってこと?


「アネモネ、大丈夫? ほんとに腹立つわね。こんなところに閉じ込められるなんて。ね、久しぶりに暴れる?」


 下手に弱音をこぼしたくなく、わざと明るく振る舞ってみた。

 きっと今の私の言葉じゃアネモネは反応してくれない。

 諦めに似た思いはあるのだけど、どうしても話しかけずにはいられなかった。


 やっぱり、私じゃーー。

 ……祭りを行うなんて……。

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