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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第五部  第六章  8  ーー  敬え  ーー

 三百十八話目。

     最近、ベクルと相性悪い気がする。私って。

            8




「まったく。お前はどれだけ問題を起こせば気が済むんだ」


 湿気臭い空間に、刺々しい声が広がった。


「年下のくけに偉そうに言わないでよ。私だって、こう何度もここに閉じ込められたくなかったわよ」


 アオバは見た目からして年下。

 そんな奴にナメられると少し癇に障り、つい文句がこぼれた。


「ーーで、なんで私だけ拘束されなきゃいけないの?」


 今度は嫌味っぽくこぼすと、壁に凭れた。

 アオバは鉄柵を挟んだ先で、釈然としない様子で腕を組み、私のことを蔑んでいた。


 だから、私の方が年上だってのに。


 十字路で騒ぎが起き、アオバらが駆けつけたのは感謝するわよ。

 あのままじゃ、アネモネまで珍しく暴れそうだったし。


 だからって、なんで私らが拘束されなきゃいけないの?


 アネモネらと口論していた人らは大丈夫で、私らは、である。


 本気を出せば、“蒼”の連中ぐらい払いのけられたのだけど、ここは騒ぎを大きくしたくなかったので、大人しく捕まっておいた。


 でも納得できない。


 屋敷の牢屋にまた入れられるなんて、ほんとに最悪。


「ーーで、なんでなの?」

「当然だろ。今、ベクルは大きく揺れてるんだ。これ以上、住民に不安を煽ることはできないだろ、バカ野郎」


 ほんとにこいつは。

 年上を敬うって言葉を知らないの。まったく……。

 鉄柵を殴りたくなるのを必死に堪え、三つ編みを執拗に触った。

 アネモネも隣の牢屋に拘束されているのだが、ずっと黙っていた。


「街の様子、以前とかなり変わっていたけど、何かあったの?」

「いろいろとな。それで住民は敏感になってるんだよ」


 私がベクルを離れていた間の事情を聞いた。


 何を考えてるの……。

 ただの挑発?

 余裕の現れ?


 どっちにしたって、ナメてんじゃん。

 イシヅチの行動を訝しげに聞いていると、自然と拳を握り締めていた。


「それで不安の矛先がテンペストに変わり、祭りの是非で口論となっていたんだ」

「だからって、すぐに祭壇を建てるなんて早くない」

「それだけベクルは追い詰められていたんだよ」


 嘆きながら答えるアオバ。

 彼自身もそれに対しては困っているようだ。

 だからって、私に当たるのはムカつくんだけど。


「でも、なんで祭りなんて。そんなのって、ほんとバカなんじゃないの」

「うるさい。仕方がないんだ」

「意味わかんない」


 極端な選択に頭痛が起きそう。


「……祭りを決めたのは、アカギ隊長なんだよっ」

 ……何がどうなってるの……。

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