第五部 第六章 7 ーー 口論 ーー
三百十七話目。
なんで、こんなことになっているのか、確かめなきゃ。
7
見覚えのない祭壇が現れ、足がすくんでしまう。
「これって急に出来たの?」
「わかんない。私がベクルを出たのって少し前よ。けど、そのときはこんな物なかった」
祭壇を見る限り、最近建てられたのか、真新しい。
これまでも何度か祭壇を見てきたが、それらにあった古びた風格などがなかった。
「なんで? ベクルに祭りなんて必要ないんじゃ」
ここ数日で何が起きたの?
祭壇を住民が勝手に造ったとは思えないし、大きな建物。
“蒼”が見逃すわけがないはず。
だから、なんで?
「これって、やっぱり生け贄もありってことだよね」
「ーーでしょうね」
祭壇の壇上の脇に、二本の剣が刺されていることから推測ができ、唇を噛んでしまう。
「ーーだったらっ」
不快感に苛まれていると、アネモネは一言吐き捨て、祭壇により近寄った。
「ふざけないでっ」
静寂が広がるなか、突如アネモネが叫喚した。
「何が生け贄よっ。何も知らないくせに、勝手なことしないでっ」
様々な方向に向かっていた人の視線が一斉にアネモネに注がれた。
「アネモネ?」
「こんなことをして、なんになるのよっ。こんなの無駄なことよっ」
どうしたの、アネモネ。
祭壇を睨みつけて叫ぶアネモネ。
私の声は届いていないのか、こちらにはまったく見る気もなく、どこか憎しみを祭壇に向けていた。
なぜそんなに感情を爆発させるの?
私ら、そんなに祭りに対して嫌悪感を持つことはなかったじゃない。
どこか、生け贄に対して憤っているようにも見える。
まさか、アイナと何か関わりでも?
戸惑いに呆然と立ち竦むなか、
「こんなことして何っ? 自分たちは助かるなんて考えてるのっ、バカらしいっ。そんなのそんなのただの傲慢でしかないわっ」
祭壇を睨んでいたアネモネは、右手を大きく振り払い、怒りをぶつけて続けていた。
「こんなことで、テンペストが鎮まる? バカじゃないっ。そんなことをすれば、よりテンペストはーー」
「お前こそ勝手なことを言うなっ」
アネモネの叫びを凶弾するように、住民の一人が怒鳴った。
「そうだっ。何も知らないくせに、偉そうなこと言うなっ」
「何っ、文句あるのっ」
周りにいた住民らが次第に十字路に集まり、アネモネに対して叫んでくる。
「お前ら、旅の連中だろっ。知った口を利くなっ」
「何がよっ。逃げだそうとしてるくせに、ふざけるなって言ってんのよっ」
そばにいた男がより声を荒げると、アネモネはその男に詰め寄ろうとする。
「ちょ、アネモネ、もう止めなって」
これ以上騒ぎを大きくしちゃいけなくて、アネモネの肩を掴んで制した。
それでも、私を押しどけようと力を込める。
なんでそこまで必死になるのよ。
「はっきり言ってあげるわっ。そんなことしたってテンペストは消えはしないわっ」
「お前こそなんだっ、これ以上街を惑わすなっ」
「そうだっ。俺たちの苦労も知らないで。言うことなんて簡単なんだっ」
空気が一気に淀んでいく。
完全にアネモネを中心にしたここで空気が歪んでいこうとする。
「だったら、こんな祭壇なんか壊してあげるわよ。そうすれば」
「お前になんの権限があるって言うんだっ」
「うるさいわよっ」
「いい加減にしろっ、お前らっ」
辺りの男たちと口論が続くなか、一際高い声が場に広がった。
「何を騒いでいるんだっ」
私らを一蹴する怒鳴り声。
聞き覚えのある声に、眉をひそめてしまう。
「ーーあんた、アオバ?」
詰め寄る住民らをかき分け現れたのは、“蒼”の青い服を着た人物。
よくアカギのそばにいた男、アオバであった。
「お前、リナリア?」
みんな、おかしくなってるみたい。




