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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第五部  第六章  5  ーー  声  ーー

 三百十五話目。

    ……これらのこと考えないと。

            5



 手を掴めない未熟さに打ちのめされ、うつむいていると、


「それで、リナはどうするの?」

「ーー私?」


 急に話を振られ驚いてしまう。

 もしかすれば、知らないうちにアネモネに会えたことに興奮していたのかもしれない。


 私はどうしたらいい?


 もちろん、私だってキョウが死んだなんて信じたくはない。

 でも、ここにキョウはいない……。


 だから戻りたい。

 戻ってちゃんと確認したい。


 けれど、そうすれば、またアネモネと離れてしまう……。

 やっと会えたのに。

 焦りからメガネのツルを突いてしまう。


 私も連れて行って。


 そんなことを言ったって、通じないんでしょうね。

 ちょっとした願望はすぐに消した。


「そのメガネ、私のやつだよね」

「うん。やっぱり外せないから」


 ある意味、未練がましいんだな、と嘲笑してしまう。


「捨ててくれたらよかったのに」

「無理だよ、それは」


 ぞんざいに吐き捨てるアネモネに食い下がらず、メガネを外すと、ゆらゆらと眺めてしまう。


 ほんと、私って誰かにすがってばかりなのかな。


 自己嫌悪に陥りながら、辺りを見渡した。

 町は静かで、穏やかな町だったけれど、意外にも客の数は少ない。


 なんか、寂しいな。


 私も誰かと話がしたいのかな……。


 寂しげな店内を眺めていると、ふとよぎるものがあった。


「私はそうね。一度、ベクルに戻ろうかな」


 本心はアネモネを引き留めたい。

 けれど叶うことはなく、可能性の残ったことを呟いた。

 それに先生とも話をして頭を整理したい。


 ーーごめん。


 自分に無理矢理納得させていたとき、微かな声が響いた。

 聞き間違いじゃない。

 確実に鼓膜に響いた。


「……エリカ?」


 不意に首を伸ばして忙しなく辺りを見渡した。耳に手を添えていると、


「リナ、何か聞こえたの?」


 私の敏感さを知っているアネモネにも、警戒が強まる。

 まだ確信は持てない。

 けれど、微かに声がした。この声は。


「……エリアの声がした気がしたの」


 でもなんだろう。エリカとは少し違って聞こえてしまう。


 それになんで「ごめん」って、どういうこと?


「エリ…… レイナ? それって、目が覚めたってことなのっ」


 急に目を輝かせ、声を弾ませるアネモネ。


「ただの気のせいかもしれないけど」

「でも、私行ってみる」


 アネモネはすぐさま席を立ち、店を飛び出してしまった。

 呆然とするなか、置き去りになりかねず、慌てて後を追った。



 高まる気持ちは、矛先が間違っていても、ふとレイナという人物に嫉妬してしまいそうになった。

 最近見たことのない、アネモネの明るい表情を目の当たりにしたために。


「ーーレイナッ」


 宿屋へ一目散に駆け戻り、慌ただしく階段を登ると、エリカの眠る部屋の扉を勢いよく開いた。

 奇妙な嫉妬を抱きながらも、期待は高まる。


 私だってエリカが目覚めるのを望んでいるのだから。


「ーーー」


 そのまま部屋に続こうとしたとき、不意にアネモネが立ち止まる。


「レイナ?」


 声を曇らせるアネモネ。態度を急変させるのが怪訝になり、首を伸ばしてしまう。


「ーー噓でしょ」


 アネモネの後ろから部屋を覗き込むと、目を疑ってしまう。

 ベッドで眠っていたはずのエリカの姿が忽然と消えていた。


「どういうことなの、これ?」

「目が覚めて出て行った?」

「そんなっ」

「アネモネッ」


 引き留める暇もなく、アネモネは踵を返し、部屋を飛び出してしまう。




 エリカはどこにもいなかった。


「セリンって奴に、連絡取ればいいんじゃないの?」


 不本意ではあるけれど、塞ぎ込むアネモネに言ってしまった。

 エリカを捜してしばらく町を探索していたけれど、見つからず、渋々部屋に戻っていた。

 ベッドに座り込み頭を抱えるアネモネには、そんなことしか言えない。

 しかし、アネモネはかぶりを振る。


「私って、やっぱりダメなんだ。信用されていないまたい……」


 そばにあった椅子に座っていると、アネモネがうつむきながら呟いた。


「実はさ、リナに偉そうなこと言ったけど、正直今、行き詰まってるんだよね。アイナの意思がって言ったけど、何もできなくて。レイナはさ、それを励ましてくれてたけど、それも勘違いだったのかな……」


 おもむろに顔を上げたアネモネは、部屋の片隅を眺めていた。


「レイナ、大剣持って行っちゃった。私ってもう用済みってことなのかな……」


 ついには頭を抱えてしまう。

 なんだろう。

 なんでアネモネはそこまで追い詰められなきゃいけないの……。


「ねぇ、アネモネ」


 塞ぎ込むアネモネに、声をかけてしまう。


「ねぇ、ベクルに行こう」

「だから、それは無理だってーー」

「そうじゃない。ベクルにはハクガンがいるから。だから、ね」

「……ハクガン?」

「うん。何か不安があるなら、ハクガンに相談もできるだろうし、先生もいるから」


 何やってるんだろ。これじゃアネモネの手助けをしてるだけじゃん。これじゃ。

 私はアイナのことを手助けなんてしたくないのに。

 私はどうしたらいいんだろ。

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