表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

313/352

 第五部  第六章  3  ーー  信じたくない  ーー

 三百十三話目。

  キョウ、やっぱり、私も受け入れられないわ。

            3



 キョウが死んだ?


 そんなの、私も信じたくない……。



 何、冗談なんか言ってんのよ。バカにしないで。


 気を失ったエリカを見つめつつも、私から顔を背けるセリン。

 重い体を奮い立たせ、こいつを殴りたくて拳に力を込めた。


 でも一歩も踏み出せない。


 セリンを殴りたいのは本当。


 でも今はそれ以上に……。


 私はキョウ、あんたを殴りたいのよ。


 手の平に爪がめり込むけれど、痛みなんてなかった。


 アネモネと話をしろ?


 何、言ってんのよ。私のことより、あんただってしょうでしょ。

 エリカのことでしょっ。


 噓かもしれないけれど、あんたの死を聞いて、エリカはショックを受けているのよ。

 あんたが支えないでどうするのよ。


 早く来なさいよ。

 私は信じないわよ。

 キョウが死んだなんて。


 ーーでも。


 認めたくはないけれど、心のどこかで“もしかして”と、受け入れてしまいそうな隙間も、悔しいけれどある。


 セリンを見ていると。


 こいつは、ミサゴみたいにふざけた冗談で人が苦しむ姿を楽しむような、そんな歪んだ奴じゃない。

 己の信念を持って突き進むと思う。

 それに、こいつはエリカをレイナと呼び、親身になる姿は、演技でもなんでもない。


 本気で心配している。


 もしかしたら、レイナって人は。

 そんなことを勘ぐるほどに、セリンの態度から滲み出していた。

 私だってそれぐらいはわかる。


 だこらこそキョウは。


 まったく、何をしてんのよ。あんたがいなくなれば、本末転倒じゃない。


 エリカはどうするのよ。

 私はやっぱり受け入れたくない。


 キョウが死んだなんて。

 涙なんて出ないわよ。

 私はまだ……。

 

 今は……。

 今するべきことは。


「……エリカを落ち着いた場所に」


 殴りたい衝動をグッと堪え、弱々しく呟いた。


 


 ミサゴが姿を消してしばらく経ち、帰ってくる様子はない。

 エリカもすぐに目を覚ます様子もない。

 致し方なく、近くの町へ向かうことにした。

 ここで騒ぐべきでもなく、静かに見守ることにしておいた。

 近くの町は静かな町。

 閑静な町並みは、争いを拒んでいそうで、大きな騒ぎとは無縁に見えた。

 また、この町には珍しく祭壇を見ることはなかった。

 それを知ったアネモネは、どこか安堵しているように見えた。

 ひとまずエリカを休ませるため、宿に身を寄せることにした。

 そして、無事にエリカを宿に休ませると、セリンは何も言わずに忽然と姿を消した。

 ……リナ。

   私はその場にいなかったけど、セリンは噓なんて言わないわよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ