第五部 四 ーー 一緒 ーー
三百十話目。
……何が起きたの、キョウ。
憎らしさしかなかった。
なぜ、そうまでしてまっすぐな目を向けられるんだ。
どうして俺に迫ってくるんだ。
お前は彼女に関わるべきじゃない。
何度突き放そうとしても、迫ってくる。
遭遇が増えるたびに、奴の意思は強く感じてしまう。
ふざけるなっ。
猪みたく荒々しい刃を向ける奴に、心底怒鳴りたかった。
なぜ、心を折ることができないのだ。
……キョウ、と言ったか。
俺の前で剣を構える男、確かそんな名前だったな。
荒々しい剣さばきであっても、実力は認めよう。
こいつは心も腕も強い。
何より多少のことでは折れぬ心の持ち主だろう。
それでも……。
こいつを初めて見たときからそうだった。
彼女のそばに立ち、彼女を守るようにいつも立ち回っていた。
武器を手にしていないときにも、身を挺して守ろうとする気概が見え、正直嘆願の思いもあった。
どこかでこいつなら彼女を任せられる、とも考えていたのかもしれない。
でも違った。
レイナが現れたことがその証拠だ。
こいつは何もわかっていない。
どれだけ口では彼女のことを言っていても、そんなことは絶対に……。
それなのになぜ、そんなに自信に満ち、揺るがない。
だから、
だから腹立たしい。
こいつの顔を見ていると、偽善にしか見えない。
こいつが……。
こいつが……。
ほんの一瞬、瞬きしたとき。
こいつの姿が霞んでしまう。
そこで猛攻に間が生まれそうになる。
姿が歪んだ。
ーー 守れなかったじゃないか。
戸惑いが襲うなか、脳裏に蔑んだ声が響く。
間違うはずも、知らないはずの声。
自分の声が。
咎める鋭い声は、眼前の奴に導かれる。
奴の姿に己の叱責の声が重なり、いつしか奴の姿が俺の姿になっていく。
俺が俺を責めてくる。
そうか……。
俺も一緒なのか。
俺もレイナを助けられなかった。
アイナ様を助けられなかった。
苛立っているのはこいつにじゃない。
自分のことを棚に上げて何を偉そうに言っているんだ。
そうだ……。
腹立たしいのは俺自身じゃないかっ。
…………




