第三章 7 ーー 目的のため ーー
三十一話目。
ヤマト、かぁ。
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「遺跡へ行く?」
ヤマトと出会った次の日の朝である。
宿屋のロビーで旅の準備をしていたヤマトと遭遇し、身のこなしの早さに驚いてしまった。
「はい。あの人たち、テンペストを追っている。さっき宿の人に聞いたんです。この辺りには遺跡があるって」
「遺跡って、石柱とか、四角い岩が落ちてあるところ?」
「はい。って、知ってるんですか?」
「ええ。私ら昨日、その場所にいたから。でも、そこに人がいた形跡なんてなかったわよ」
影薄男が確か“キョウ”で、人見知り大食い女が“エリカ”だったか。
「そんな二人組とは遭遇していない。ってか、私らは西の方から来たけど。やっぱり、そういう人は見てないわよ」
「ーーえっ、西? 遺跡ってそっちの方向にもあるんですか?」
つい眉をひそめてしまう。
どこか話が噛み合わない。
「あんた、どこから来たの?」
「リキルって町です」
町の名を言ったとき、一瞬ヤマトの表情が曇った。
それにしても、聞いたことのない町の名である。
「それって、南東の方にある町だよね。やけに遠くから来たんだ」
感心するアネモネ。
そっか、私が覚えていないだけなのか。
「でも、この辺りにはそんな忘街傷みたいなのが多いんだ。多分、君が見た遺跡と私らが見たのとは違うみたいだし」
「じゃぁ、私らはその南東の遺跡に行ってみる? 忘街傷とは違うかもしれないけど、行ってみる価値はありそうだし」
「うん。だね。で、君はどうするの?」
アネモネはこれからの進路に納得すると、ヤマトにも聞いてみる。
「僕はじゃぁ、とりあえず、あなたたちが見たっていう遺跡に行ってみます」
「あ、待って」
ヤマトも自分なりの考えがあるらしいけど、何かを思い出したようにアネモネが声を張り、ヤマトを止めた。
「あっちに行くなら、もう少し待っておいた方がいいよ」
これまで楽しそうに喋っていたアネモネであったけれど、急に神妙な口調になる。
「どうも、あの辺りに変な連中がいると思う。だから、そいつらがいなくなるまで待っておいた方がいいよ」
それは遺跡で感じた馬に乗った集団のことを指していた。
私たちの感覚の鋭さには自信がある。
「そうね。町を理由なく襲ってくる奴かもしれないし」
以前、アカマという商人の忠告が頭をよぎった。
遺跡で感じた連中がそいつらなのかはわからないけど、警戒することに越したことはない。
それに、どうもヤマトはひ弱に見えるけれど、どこか強引さもあって危うく見えてしまう。
引き止めたくなった。
「……町を理由なく襲う……」
何かブツブツとヤマトは呟き、顔を伏せてしまった。それでもまだ何かを呟いている。
しばらく壊れたように何度も小さく頷いた後、ヤマトは顔を上げた。
「わかりました。僕はもう少ししてから出発することにします」
ヤマトは清々しい表情で言い放った。
明るく振る舞う姿は、不安が拭えたのか、スッキリしているけれど、反面危うさを感じてしまった。
「ヤマトって子のこと、ちょと気にしてる?」
「なんかね。どうも、何か抱えているように見えちゃって」
ロビーでヤマトと別れ、階段へと向かったヤマトの姿が消えるのと同時に、アネモネに聞かれて答えた。
変な気持ち悪さが拭えない。
「ーーでも、私らも彼の心配をしている余裕もないしね」
「だね。私らーー」
刹那、アネモネは言葉を詰まらせ、私と顔を見合わせた。
ロビーにはほかにも数人の客が休んでいて、賑わっている。
それなのに、それらの声が瞬時に聞こえなくなってしまう。
しかも、人々の動きがスローモーションみたく、遅く見えた。鼓動だけが場違いのように激しく脈打っている。
激しさは急かすように胸を圧迫させる。
急がなきゃ。
「嘘でしょ」
警戒を強める動悸に急かされ、荷物をまとめて町を出ようと、町の入口へと向かったときである。
町の入口に、ある集団が陣取り、入口を塞いでいた。
数として八人はいた。
屈強な男であったけれど、私からすれば、ガサツが皮を被っているように見えた。
全員が馬に乗り、何かを喋っていた。
集団のなかに一際小さな男が見えた。
その男は、周りにいる男に何か指示をしているのか、忙しなく指を動かしていた。
何か統率の執れた集団。みなが青い服を着て、腰に剣を下げていた。
そして、どこか禍々しさを漂わせていた。
先ほど感じたのは奴らの馬の走る音。
まだ鼓膜が響いているなか、建物の影からその集団を睨みつけていた。
さてと……。
どうするべきなのか……。




