表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

307/352

 第五部  第五章  3  ーー  あいつはエリカ  ーー

 三百七話目。

 なんで私らが責められなければいけないのよっ。

           3



 地を震わす怒声に体を強張らせたとき、おもむろに剣を抜くセリン。

 獰猛な目で睨まれ萎縮しそうになる。


「苦しめるっ? それはお前たちだろうっ」


 セリンとの距離はどれだけあった?


 瞬きをした瞬間、自問する間もなくなく一気に距離を詰められ、目を見開いた。


 これまで何度セリンに遭遇していた?


 そのたびに体から放たれる異様な圧迫感に萎縮することもあった。

 それでも、禍々しさといった恐怖はなく、孤高な姿に圧倒されるような緊張であった。

 そこで心底から警戒を高めることはなかった。


 それなのに、今はセリンの一言は敵意に満ちていた。


 こいつ、そんな奴だったか?


 ほんの一瞬の間にそんなことが頭を巡ってしまう。

 戸惑いに襲われながら、セリンの刃を受ける。

 重いっ。

 かなりの力があり、足が引かれる。受けるだけで体が軋む。

 指先が悲鳴を上げそうだ。


「なぜ、レイナが現れたと思っているっ」


 刃越しにセリンの怒号が轟く。


 こいつがこんなに感情的になるなんて。でもーー


「そんなこと知るかっ」

「それはお前たちが彼女を苦しめたからだっ。追い詰めたからこそ、レイナが出現しなければいけなかったんだろう。彼女は出るつもりもなかったはずだ」


 怒りに隙を突かれ、ナイフを弾かれてしまう。

 ナイフが手から放れ、宙を舞って地に落ちる。

 まだ右手が痺れる。やっぱリーチが短い。

 いや、それ以前に……。


「お前はレイナの何を知っているっ。何も知らないくせに、偉そうな口を叩くなっ」


 体勢を立て直したいのだけれど、セリンはそれを許さない。

 幾度となく刃の洗礼が空を斬る。

 屈強な体格とは裏腹に、セリンは動きを止めない。こいつ、意外にもミサゴより早い。

 何度も迫る刃を寸前でかわすしかない。

 くそっ。風圧だけでも斬れそうだ。

 剣の軌道をかわすのは、ただ踊らされているだけ。情けない。


 どうする?


 かわすだけだと何もできない。ナイフは…… くそっ。

 ナイフを拾うだけの隙すらない……。

 くそっ、距離を詰めないと。


 ダメだ。


 感情的になっているとはいえ、ミサゴより隙がない。


「ーーキョウッ」


 隙を伺っていると、リナの声が響く。


「ーーっ」


 次の瞬間、僕の右手に剣が握られる。


 この剣……。


 リナの方向に振り返った。

 すると、リナは倒れていた“蒼”の兵のそばで膝を着いていた。

 恐らく倒れていた兵の剣を投げてくれていた。


 なんだっていい。今は踏み込むだけ。


「ごちゃごちゃ、うるさいっ」


 体を回転させ、右手を振り上げた。

 ようやく、セリンの剣を弾かせた。

 体をよろめかせるセリン。

 まだ、もう一歩。今ならセリンの懐ががら空き。

 ここを攻めるしかない。

 両手で剣を振り上げ、一気に振り下ろした。


 ーー貰ったっ。


 金属音が激しく火花を散らした。


 なんで、火花が散るんだっ。


「珍しいね、セリン。あんたが油断するなんて」


 困惑が襲う間際、嘲笑するミサゴの声が響く。

 すぐ足元から。


 ミサゴが眼前にいた。


 セリンとの間に片膝を着いて座り、両手で槍を横に向けて抱えていた。

 僕の放った一撃はミサゴに受け止められていた。


「キョウ、放れてっ」

 リナの発狂に反応し、横に跳ね飛んだ。

 それと同時にナイフが飛んでくる。


 まったく、いいタイミング……。

 でも一歩遅れれば、僕が喰らってた。


 容赦ないよ、ったく。


 関心と戸惑いが混じり、頬を紅潮していると、ミサゴは槍を回転させる。

 ナイフは簡単に弾かれる。

 やっぱり、こいつら油断ならない。

 リナのそばに下がりながら、改めてこいつらの脅威に背筋が凍る。

 なんだろう、ほんの数回しかぶつかっていないのに、何時間も戦ったみたいな疲労感に襲われ、肩で息をしていた。


「お前たちは、何を知っていると言うのだ」


 大きく深呼吸をし、息を整えるなか、セリンは剣先をこちらに向ける。


「そんなの知らない」


 一歩も引かない。

 ここで引き下がるわけにはいかない。


「あいつはエリカだ。レイナとか、生まれ変わりとか、そんなの関係ない。エリカはエリカだっ」

「そうよっ。アネモネだってそうっ」


 結論はそれだけ。


 それ以上でも、それ以外でもない。

 元々口論なんかすり気もないんだ。こいつらが乱しているだけ。


「生まれ変わりだからって、なんだっ。生まれ変わったあいつらに責任を負わす。そんなのそれこそ、お前たちの傲慢でしかないだろっ」

 ……許さないっ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ