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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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305/352

 第五部  第五章  1  ーー  憎らしい声  ーー

 三百五話目。

  前回と違って、少しでも気分が変わればいいんだけど。

           第五部  

 

           第五章



            1



 それほどナルスから離れていたつもりはなかった。


 テンペストが遠くからでも目立っていたのか、それとも焦りが邪魔をしているのか。

 思いのほか、戻るのに時間がかかってしまった。

 しかも、


「なんだよ、これ……」

「誰かの仕業だよね、絶対」


 開けた草原を駆け抜けようとすると、不意に足が止まってしまう。

 そこには十人ほどの人が倒れていた。

 それも“蒼”の兵士であり、何かの騒動があったことは明白。


 誰もが大きな傷を負っている。鋭利な刃で切られ、倒れた草を血で汚している。


 微かな望みを持ち、倒れた一人に駆け寄り、しゃがみ込むと、首筋に手を添えて脈を確かめた。


 もう遅いとわかっていても……。


 リナはかぶりを振る。


「容赦ないわね。完全にみんな、一撃って感じね」


 膝を着いて辺りを見渡すリナ。

 惨劇の現状に次第に眉を歪めていく。

 見えない犯人を軽蔑する、蔑んだ目で。


「こいつら“蒼”だよな。アカギの部下か?」

「わからないわ。でも、そうじゃない気がする。私は」


 リナは銀髪を掻き上げ、答えを渋る。


「前にも言ったでしょ。アカギの部隊は相当優秀なのよ。見る限り奇襲を受けたみたいだけど、簡単にやられるとは思わないわ。それにアカギの部下はベクルかハッカイのいるミルファだろうから」

「だったら、これは」

「もしかすれば、別の部隊の…… いえ、可能性としてはイシヅチの部隊って考えるのが一番しっくりくるかもね」


 なるほど、と納得しつつも、どこか気がかりになり、鼻頭を擦ってしまう。


「でも、それじゃなんで? そいつらと争う奴なんかいないんじゃ」

「そうね。一般の人にとって、内紛なんて知られていないしーー」

「へぇ。少し見ない間にこの連中とやけに仲よくなってるみたいだね」


 不穏な現場に眉をひそめていると、場に不釣り合いな明るい口調の声が草原に広がった。


 ……誰だ?

 一度、リナと怪訝に目を合わせた後、声に引かれて体を向けた。

 瞬間、両手に力がこもってしまう。


「なんで、あんたたちがここにいるのよ」


 一気にリナの声がこもり、敵意を剥き出しにして、ゆっくりと立ち上がる。


「さぁ、どうだろ。ただの気紛れって言えば、納得してもらえるかな」


 この憎らしい声。

 忘れるわけがない。


「……ミサゴッ」


 リナの噛み殺した声に奥歯を噛んだ。


「へぇ、覚えていたんだ。光栄だねぇ」


 人を茶化すような口調、忘れたくても脳に貼りついて忘れることなんてない。

 フードを被っていても、間違えるはずがない。


「あんたがこいつらをっ」

「さぁ、どうだろうね」


 嘲笑しながら、こちらに近寄って来るミサゴに警戒を強め、一歩下がってしまう。

 リナも背中に手を回す。

 フードを被っていたミサゴは、今回手ぶらではなく、右肩に大きな荷物を担いでいた。

 背の低いミサゴには似つかない大きな荷物。

 黒い布に巻かれてはいるが、何かいかがわしい。


 ……武器か何かか。


 そして何より、ミサゴの隣にもう一人いた。

 こちらはフードをめくり、素顔を晒している。

 褐色のいい肌に、彫りの深い顔。そして獣みたいな獰猛な目。


 忘れちゃいけない奴。


 ーーセリン。


 セリンは立ち止まり、腕を組んだが、ミサゴは歩を止めない。

 そこで、ミサゴはフードをめくった。

 初めて見せた素顔に、唖然となった。

 ミサゴの顔、左の額の上部から目の下辺りまで大きな傷があった。


 こんな傷、それなりのことがないと痕が残らないはず。


「気にする必要はないよ。この傷はここで死んでる奴らに斬られたものじゃないからね」


 前髪を直しながら笑うミサゴ。

 まったく悪びれる素振りはない。


「じゃぁ、やっぱりここにいる奴らを」


 リナの敵意に満ちた問いも、ミサゴには首を捻って流された。


「そだよ~。僕らは君らを待っててね。そしたら、賊みたいに襲ってきたしね。それで退出してもらったんだ。こいつらに僕の武器を見せたのももったいなかったけどね」


 笑いながら話すと、肩に担いでいたのを地面に突き立て、巻かれていた布を剥がし、風に捨てた。

 風に布は流され、一本の槍が晒される。


 槍…… だったら、やっぱり。


「僕らは君らを倒しに来たんだ」

「僕らを倒す? どういう意味だよ」

「さぁ、どうだろ」


 じりっと足に力を入れて問うと、ミサゴは槍を軽々と片手で頭上で回転させると、また茶化してごまかす。


「そんなことより、一つ聞きたいわね」


 緊張が走るなか、リナが凄い剣幕で割り込んでくる。


「あんた、本当にツルギ隊長と先生と戦ったのっ」


 気のせいだろうか。リナの口調は、これまでよりも刺々しく、リナは危うさを漂わせていた。

 敵意や殺気では片づけられないほどに。

 よかったじゃん。

     僕らの出番もあるみたいだし。

 では、新しい章もお願いします。

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