第五部 四 ーー 責任 ーー
三百四話目。
この章、重たかったわね、一言で言って。
アイナ様を逃がすため、俺がレイナらと村を出ようとしたときである。
イカル、任せたぞ。
セリンから真剣な眼差しで告げられた言葉が今も脳裏に張りつく。
罪悪感から胸が張り裂けそうだ。
ワタリドリにおいて、後悔を抱かない者はいない。
少なくとも、俺がいた時代の者は、きっとそうした者は多いはずだ。
特にアイナ様、レイナ。
あの二人に深く関わっていた者は、地に想いが留まってしまっているだろう。
特にハクガン、ミサゴ。それにセリン……。
彼らは今どこに行ってしまっただろうか。
きっと、俺が彼らに会う資格もないため、諦めるしかないが。
俺がここにずっと留まっているのは、恐らく贖罪。
いや、そんな名目を付けることすら、間違いか。
彼女を救えなかった罰として受け入れなければいけない。
途方に広がる水面に立ち、波のない穏やかな水面を眺めていると、静けさが逆に無言の圧力を俺に向けてくる。
何も起伏のないこの地に留まることが罰なのだろう。
セリンよ、特にお前には謝っても許されるものではないよな……。
俺にもっと剣士として力があったのなら。
静かな水面に反射した自分の姿に、己に対する憤りが強まる。
俺は刀鍛冶。
俺があの大剣の研磨を行った時点で、最悪の事態を想定をして行動しておくべきだった。
刀鍛冶という名目を盾に、鍛錬を怠ったのが、あの悲劇を招いてしまったのだから。
俺に剣術の実力があれば、セリンをレイナの警護に当て変えることができたはず。
俺に実力がなかったからこそ、長老はアイナ様にセリンを当てた。
わかっていたとしても、セリンも内心はレイナの警護に当たりたかったはずだ。
すべては俺の実力不足が招いてしまったのか……。
それは“たられば”であったかもしれないが。
あのとき、ミサゴを逃がしたのは唯一の救いだと信じたい。
奴しか逃がせなかったのは、情けないとしか言えないが。
ミサゴが誰か仲間に合流し、助けが来れば……。
いや、今考えてもそれすら間違いだった……。
あのとき俺だけが残り、レイナもともにミサゴと逃がしておけば……。
ミサゴの実力を考えれば、それも不安ではあったが。
それでも、少なからずレイナがまだ助かる可能性があったのではないか。
本当にすべて俺が悪いんだ……。
すべては俺の責任……。
……知らなかった。じゃ、ダメだよな……。




