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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第五部  第四章  10  ーー  存在意義  ーー

 三百二話目。

   この章、聞いているとある意味、嫌になりそう。

   

           10



 私はなんのためにここにいるの?


 アイナの死を知り、一ヶ月が経っていた。

 外の様子は時折ヒヤマが教えてくれる。

 それでも、私ははっきりと覚えていない。

 風みたいに肌に触れるだけで、どこかに消え去っていた。

 外の出来事に、震えることも悲しむこともなかった。

 人形みたいに……。


「……人はなんのために戦争を続けるんだろうな」


 牢屋の隅の陰で膝を抱えて座っていると、鉄柵に凭れたヒヤマが力なく呟いた。

 それでも私は返事ができず、頭をうずくまらせてしまう。


「……テンペストも以前より強まっているらしい」


 ……テンペスト……。


 久しぶりに言葉が胸に吸い込まれていく。


「……強く? じゃぁ、人の業は消えていないってことね……」

「人の業、か。確かにな。この戦争、すべては人の業なんだろうな」


 空しい。


 もう、なんでこんなことになったのか、そんなことを考えるのも辛くなる。


「なぁ、テンペストを鎮めるには、どうしたらいいと思う?」


 テンペストを鎮める?

 そんなの……。


 ふと顔を上げた。


「そんなの、人が自分の過ちに気づけばいいだけなのよ」


 思わず嫌味が出てしまう。


「そうだな。けど、人は目先に安穏が立ちこめると、間違った手段を選んでいたとしても気づけない。だから、何度も間違いを犯してしまうんだよ、きっと」


 溜め息交じりに嘆くヒヤマ。

 力なくこぼした弱音に、不意に顔を上げた。


「すまないな。これは僕の弱音だ。誰かに話したくてな。聞き流してくれていい」


 ヒヤマは私が顔を上げたのに気づいていないらしく、話を続けていた。


「上の連中が言い出したんだ。これ以上、テンペストを酷くさせないために何かをしなければ、と。だからって……」


 そこで言い淀むヒヤマ。 

 気になり姿を伺うと、ヒヤマは頭を抱えていた。


「何かあったの?」


 声をかけると、驚きながらも頷いた。


「誰か一人を人柱に捧げると言い出したんだ」

「ーー人柱?」

「あぁ。人柱と言えば、尊厳があるかもしれんが、体のいい生け贄だ。誰かの命を犠牲にして、自分たちの命を守ろうってな」

「そんな、人を犠牲にって……」

「バカげているだろう。そんなことでテンペストが鎮まるなんて保証はないんだ。ただの独りよがりでしかないんだよ、こんなの」


 そこでヒヤマの口調には、怒りがこもっている。


「ねぇ、その人柱、どういう経緯で選ばれるの?」


 素朴な疑問であった。

 どんな人が選ばれるのか気になると、ヒヤマはまたうつむいた。


「そんなの人の詭弁だ。上の人間の偏見に満ちた人選になる。きっと自分たちの利便のある者は省き、逆らう素振りを見せる者から選出されるだろう」

「何それ? そんな偏った考え方なの?」

「それが人の業の形の一つだよ。権力を持てば、自分は神になったと誤解する奴が多い」


 最後の一言は、ヒヤマの怒りに満ちており、吐き捨てていた。


「いいの。あなたがそんなことを言えば、あなたも危険なんじゃ」

「構わないさ。どうせ僕の声は届かないんだしな」


 私の不安にヒヤマは嘲笑した。

 でも、誰かは犠牲になる。

 ふと天井を眺めた。

 殺風景な岩肌が迎えるだけ。


 ………。


 アイナ、あなたは何を思って踊ったの?


 辛くなかった?

 苦しくなかった?

 ……セリン、私はどうしたらいい?


 ……………。


 ……怒らないでね、セリン。


「ねぇ、ヒヤマさん。その人柱、私じゃダメかな?」

 人の業……。

   それはいつだって変わらないのかもしれない……。

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